吐息が聞こえるその距離で。
[episode 12](1/13)


脱衣所から聞こえるドライヤーの音を背に、リビングのソファーの上で一人そわそわしていた。



九条さんが、帰ってきた…

その事実が嬉しすぎて、まだ泣きそうな気分。




今朝、道子さんに家まで送ってもらう道中、



「たくさん…ごめんね。でも信じてあげてね。」


と、ただそれだけ聞かされていて…



その言葉の意味も、切なげに笑った道子さんも、簡単に理解できることでは無かったけれど…


でもそんなの抜きにして、こうして九条さんがこの家にいることが何よりもやっぱり1番に嬉しい。




「千沙?歯磨きした?」


脱衣所から顔を覗かせて、手に持った私の歯ブラシをチラつかせた。



「まだです!」


駆け寄ってその歯ブラシを受け取ると、



「はい。」


と、歯磨き粉を慣れた手つきでつけてくれる。


久しぶりのこの感覚に、何だかとても気持ちが高まっていく。





隣に並んで2人で歯を磨いて、鏡にうつる身長差にドキドキして、



「ん?」


鏡越しに目が合うと優しく笑ってくれる九条さんに、



「んーん。」


話せないかわりに首だけ振って、思わず私からも笑みがこぼれる。



幸せ。


なんてことない、普通のことが、普通以上に幸せだ…




思わず九条さんの左腕に、自分の右腕を絡めてそのまま歯を磨く私に優しい顔を見せてくれる。




一時も離れていたくない、というか…

常に触れてたくて。



歯磨きを終えて、絡ませた腕が自然と解かれてたものの、



「今日は千沙の部屋で一緒に寝かせてくれる?」


九条さんが私の手を取って、キュッと指を絡ませた。



「もちろんです。」



リビングの電気を消して、そのまま2人で私の部屋に入った。




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