吐息が聞こえるその距離で。
[episode 11.5](1/25)
「午後戻るんじゃなかったのか?」
園田が運転する車に乗り込んで、俺は一度大きなため息。
「昨日の夕方戻りましたよ。…私は私でちゃんと見張りをつけていますからね。」
俺らを出し抜いたのが嬉しいのかクスクス笑っている。
道子さんをも警戒してたってわけか…
はぁ…
黙り込んだ俺に、
「ご自身の立場をお忘れですか?」
ルームミラー越しに厳しい視線。
「…最初からそんなのないだろう。」
「そうやっていつまでも…だから私が貴方から目を離せないのですよ。ちょっと目を離せばすぐあの小娘と…」
「何回も言ってるだろ。俺には千沙だけだ。」
今回の件で、より一層強くそう思った。
「二階堂様との婚約はすでに成立したも同然です。それを…」
「だとしても関係ない。俺は千沙以外とは結婚なんてしない。…千沙が必要なんだ。」
嫌な部分を見せて、だせーことして、格好つけるどころか格好悪い所ばかりの俺に、何度も嬉しい、好きだと言ってくれた。
出会った時からそうだった。
いつだって強いのは千沙で、俺を正してくれるのも気付かせてくれるのも、全部千沙だった。
守りたいと思いながら、守られていたのは俺の方かもしれない。
「…一体彼女の何が?二階堂様と比べたってどう考えても…」
「比べるまでもない。千沙は千沙だ。千沙だから好きなんだよ。それにお前だって会って話して、実際わかるだろ?」
「ただの生意気な小娘ですよ。…ガッツはあるとは思いますけど。」
「ほら、わかってるだろ?」
園田がこう言うだけでも大したものだ。
- 319 -
前n[*]|[#]次n
⇒しおり挿入
⇒作品?レビュー
⇒モバスペ?Book?
[編集]
[←戻る]