吐息が聞こえるその距離で。
[episode 11](1/46)
『九条さんが帰ってこない!?』
電話の向こうで香澄が大きな声を出した。
『全っ然意味がわかなんいんだけど…』
それは私のセリフだよ…
昨日の朝、いつも通り普通にお互いに仕事と学校に向かうため、この家の前で別れた。
「電話しても電源が入っていなくて…」
昨日は私の誕生日。
一緒にご飯に行こうと言ってくれて、九条さんの帰りを待っていたんだけど…
「全く連絡とれないなんて初めてで…」
ちょっとでも遅くなるときは欠かさず連絡をくれたし、ましてや出張以外で外泊した事も無かったから…
『それ何かやばくない…?』
香澄が控えめに言う。
だけど、本当にその通りすぎて…
急な飲み会で、
仕事が長引いて、
色々な可能性を考えたけれどどれもしっくりこない。
現に今日、土曜日の昼まで九条さんからの連絡は1度だってないんだから。
『…誕生日だったのに、何で。』
私の気持ちを代弁するかのように、寂しい声を出した香澄。
思わず沈黙が続く。
「どうしよう、事故にでもあって…」
『縁起でもない事考えないの。きっともう連絡くるよ。あまり深く考えないでおこ?』
香澄の言葉に、そうだね、と頷いて私は一旦電話を切った。
だけど…
どう考えてもおかしい。
私に愛想つかして出ていくなんて、自意識過剰かもしれないけれど絶対にありえない…と思う…。
…あくまで願望だけど。
昨日、日付が変わって、おめでとうって、生まれてきてくれてありがとうって…
すごく幸せな時間を過ごしたんだもん。
マイナスな考え、ちょっとでもする方が九条さんにも失礼だよ…
でも…
心配で落ち着かなくて、それでも何もできなくて…
そんな時、思いついたのは麻生さんだった。
電話かけてみようかな…
私が今頼れる人は麻生さんしかいない。
数回コール音が響いたところで、
『千沙ちゃん!?どうしたの?』
いつも通りハイテンションな麻生さんの声が私の耳に飛び込んできた。
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