吐息が聞こえるその距離で。
[episode 8.5](1/5)
side九条




「お前、最近帰るの早くね?」


「あー、仕事が落ち着いたから。」


昼休み、いつものように悟とご飯を食べる。


ニヤニヤした顔は相変わらずだ。



何が言いたいのか手に取るようにわかる。




「早く家に帰りたくて仕方ないんだろ。」


でた。


千沙の話題だ。




そろそろ、千沙と付き合い始めて1週間が経とうとしている。


悟にはまだ話していない。



仕事が落ち着いたのはもちろんだけど、就業時間中の集中具合がハンパなく良いのは決して偶然なんかじゃない。


仕事を片付けて一刻も早く千沙のいる家に帰りたいから。


家に帰って、玄関のドアを開けた瞬間に晩ご飯の匂いがするってことがどれだけ幸せなことか。


千沙が笑顔でおかえりなさいって言ってくれることがどれだけ幸せなことか。



「くそー、俺も女子高生の家政婦探そうかな。」



悔しそうに遠くを見つめる悟。



だけど、



「千沙は家政婦じゃねえよ。」



「へー、じゃあ何なの?」


そんなの決まってる。



「彼女だよ。当たり前だろ。」



「は、…っゔ、ゴホッ!」



「うっわ汚ねっ。」


味噌汁を飲んでいた悟が急にむせ出した。



寸前でトレイを持ち上げたから良いものの、本当なんなんだよ。




「…まじ?付き合ってんの?」



「あぁ。」



「いつから?」



「先週。」



「ヤッた?」



「…ヤッてねぇよ。またその話かよ。」



ほんっとにこいつの脳内は四六時中セックスだな…



はぁ、とため息をついたところで、



「それって平気なわけ?それとももう性欲も落ち着いちゃった感じ?」


わざとらしく眉間にシワを寄せて驚いたように俺を見る悟。


ご飯中に何とも下品な会話だ、なんて自分でも思うが男なんて所詮そんなもんか。



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