吐息が聞こえるその距離で。
[episode 8](1/38)
「よく言ったー!!頑張ったねぇー!」
月曜日の朝、学校に着いて早々、香澄に昨日のことを報告するとピョンピョンとその場で跳ねながら私をギュッと抱きしめた。
「香澄!声!」
大きな声を上げる香澄に、シー!と必死に人差し指を口の前にあてる。
だけどそんなのお構いなしに、
「なんで!良いじゃん!」
私より遥かに浮かれている。
「千沙がこんなに成長して…私は嬉しい!」
まるで母親かのようなそのセリフに思わず笑ってしまった。
「しっかし、27歳が彼氏かぁ…」
ニヤニヤと、口元を緩ませる香澄。
「…え?」
一瞬の沈黙。
香澄と視線を合わせたまま、お互いに何度かパチパチと瞬きを繰り返した。
それからすぐに香澄が少し困った表情を浮かべながら、
「えっと…付き合うんだよね?」
握ったままの私の手をゆっくりと離した。
あれ…
そういえば…
「そんな話、してない…」
冷や汗に近い何かが体を流れた気がした。
「はい!?何で?え、じゃあ告白して終わり?」
私よりもさらに青い顔を見せた香澄は今度は私の肩をガッチリと力強く掴まえ、その勢いそのまま私にぶつけてきた。
というか…
「付き合う以前に好きって言ってない…し、言われてない…かも。」
かも、ではない。
確実に言ってないし言われてない。
「ちょっと待って、一旦落ち着こ?え?千沙は昨日、九条さんと何を話したの?」
「…知りたいですって言って、九条さんも知りたいって。」
よく考えなくても、それだけだ…
「…でも抱き締められたりしたんでしょ?」
「した…。」
それに、
「可愛いって言ってくれた…」
「はい、思い出して赤くならない。」
香澄の言葉に慌てて緩みそうになる頬を人差し指で無理矢理、下へ下へとおろす。
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