吐息が聞こえるその距離で。
[episode 7](1/32)


さっきから頭に浮かぶのは、広場でのあの光景。


あの女の人…


前に九条さんと街で見かけた人だよね…



絶対にそう。



今日は私服だったから雰囲気は違ったけれど、あんなに綺麗な人を忘れるわけない。



「はぁ…」



どうして腕なんか組んでたのかな。

あんな場所で…



…ずっと2人でいたの?


やっぱりあの人が彼女なの?




お似合い、どう見ても誰もが憧れる美男美女の理想の恋人同士。



大人の女性だったなぁ。


私、あんなに色気ない。


あんなに綺麗な服持ってない。

あんなに高いヒールも履けない。



私とは月とすっぽんだよ…



でも、気になることがもう一つ。





…どうして私との同居をわざわざバラしたの?






せっかく楽しく遊ぶはずだったのに、その事が気になってなんとなく今日1日、上の空だったような気がする。



3人にも申し訳ないや…



家に帰ってきてからというもの、さっきからあの光景ばかり頭に浮かんで何も手につかなかった。


ご飯作る気分にもなれないや…




すると、突然インターホンが鳴り響いた。



何…?


時刻は19時過ぎ。


来客にしては遅めだし、もしかして荷物かな?



九条さん何か頼んだのかも。



「はーい…」


駆け足で玄関に近づくと、



「あ、千沙ちゃん?」


ドア越しに知らない男の人の声。


一瞬にして足が止まる。



誰……?



私の名前を呼んでいるのだから、知らないわけない。


けれど、この家の場所を知る男の人といえば湊と父くらいだ…




なんで…


誰?



恐怖心が湧き上がりそうになった時、




「俺だよ、パスタ屋で会った夏希の同期の麻生悟。」



…パスタ屋?

麻生悟……?





あぁ!あの時の!



「わー!すみません!今開けますね!」



麻生さんかぁ!


納得した私からは一気に恐怖心が無くなり、施錠したドアを開けると、



「ヤッホー!」


満面の笑みの麻生さん。


それから…



「へ?九条さん…?」


麻生さんに肩を預けた、九条さんの姿。



「ただいま千沙〜。」


いつもより少しだけ声の感じもおかしい。






- 122 -

前n[*][#]次n
/534 n

⇒しおり挿入


⇒作品?レビュー
⇒モバスペ?Book?

[編集]

[←戻る]