吐息が聞こえるその距離で。
[episode 2.5](1/6)
side 九条





「じょしこーせー…?」




「……。」





「女子、高生…?」





「……。」






グラスに入った氷を、わざとカランと音を立ててゆっくりとカウンターに置いた。



「マスター、同じの。」



俺の言葉にいつもの笑みで、そのグラスを手に取り、再びお酒を作るマスターを目で追って一息ついた。




「シカトしてんじゃねーよ。マスター、俺も!」


同じくして、空いたグラスを音を立ててマスターに差し出すこいつは、同期の麻生悟(あそうさとる)




「で、何。そのじょしこーせーに毎日ご飯作ってもらってんだ?」



口を滑らせたのが悪かった。


話すつもりなんかこれっぽっちもなかったのに、うっかり。






「やべ、ご飯いらないって連絡してねぇ。」


なんて言ってしまったのが運の尽き。




誰かにご飯を作ってもらうなんて、もう何年ぶりかわからないせいで、外食時に連絡を入れるという行為を忘れてしまったのだ。


焦ったあまり言葉にしてしまった。



それが、このバーに来た直後、つまりかれこれ15分前の出来事だ。



席を外して電話で謝ると、1ミリも嫌な声色を出さず、



「大丈夫です。気にしないで下さい。」


と言う千沙に、自己嫌悪が募る。


さすがに申し訳ないし、それより千沙のご飯を食べたいという気持ちもあって電話を切った後、明日の朝食にしたい旨のLINEを送った。



そして席に戻れば、案の定…



「おい、聞いてない。」



悟が目を細めて睨むように、しかし、少しだけ嬉しそうなそんな顔で俺を見てくる。



めんどくせー…なんて思ったものの、結局その質問地獄から抜けられず今に至る。






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