吐息が聞こえるその距離で。
[episode 2](1/26)
結局、その日はどこかに出かけていたようで、夜遅く帰ってきた九条さんとはまったく顔を合わすことは無かった。
けれど、部屋が隣同士。
ちょっとやそっとじゃ音は聞こえないけれど、シーンと静まり返った部屋になると、何となく響いてくる物音。
それがやけにリアルな感覚で、すごく恥ずかしかった。
お風呂も済ませ、あとは寝るだけの状態で私は部屋で勉強していたのだけれど…
ひとつ、忘れていたことがあった。
だけど…
話しかけに行けない。
またあんな態度をされては私だって傷つくもの。
だけど…
「あの、九条さん…少しよろしいですか…」
勇気を出して、部屋のドアをノックした。
本当は今にも泣き出しそうなくらいビビってる。
「何?」
すぐにドアが開いて、こちらを見下ろす九条さんと目が合った。
身長が高いだけに迫力がすごくて、私は息を飲む。
「えと…あの…お風呂のお湯抜き忘れてしまって…」
それで…
と、言葉を続けようとした私の言葉を遮って、
「あぁ、どっちにしろ俺はシャワーだけだから問題ない。」
…へ?
問題ない…?
もしかしたら嫌味の一つや二つ言われるのでは、と覚悟していただけに少しだけ拍子抜け。
「それより、しっかりルール決めておくべきだよな。ちょっとリビング集合。」
「へ?あ、はい…」
優しさ…とは違うけれど、でも明らかに昼間の様な威圧感しかない態度ではない九条さんに、少しだけホッとしている。
いつの間にか、紙とペンを持ってリビングへと出てきた九条さんは、まだ何も置かれていないその床にそれを置いて話し始めた。
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