吐息が聞こえるその距離で。
[episode 1](1/6)
ガヤガヤと人が行き交う空港のロビー。
「何かあったらすぐに連絡してね。絶対だぞ?何時でも良いからとにかく…」
「もー、それ何回目なの?わかってるから大丈夫。」
「戸締まりもしっかりして、ご飯も三食しっかり…」
「あー、ほらもう時間やばいから!」
誕生日プレゼントにもらった腕時計を指さしながら、あからさまに急かす素振りを見せる私を見て、父は大きなため息。
そしてすぐさまギュッと私を抱きしめると、
「行ってきます。」
名残惜しそうに、涙声ながらも力強く。
「行ってらっしゃい。」
何度もこちらを振り返りながら搭乗ゲートをくぐった父に軽く手を振る。
もうどっちが子供なんだか…
行き先はニューヨーク。
父が今日、アメリカに旅立った。
と、言うと少しだけ大げさに聞こえるけれど。
大手の企業に勤める父はこの4月からニューヨーク支社へと転勤になった。
茅野千沙(かやのちさ)
この春から高校3年生。
父子家庭、一人っ子。
母は私が小学生になってすぐ、交通事故で他界した。
そのせいか、父の私に対する愛情は2人分。
おかげで”過保護”と言っても過言ではないくらい。
今回の転勤だって、私を1人日本に置いていけない、ついて来てくれと何度も何度もお願いされた。
だけど、私も高校3年生。
今の高校にだって必死に勉強して入ったし、今だって第一志望の大学を目指して毎日勉強に励んでいる。
父の落ち込んだ顔は本当に心苦しかったけれど、どうしてもアメリカ行きを決断できずに私は無理を言って、日本に1人残ることを許してもらった。
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