扉の向こう
■[終わりと始まりの節目](1/12)
―――終わりと始まりの節目―――

「ああ、もう、本当にアンタうっさいのよ。着いて来るなって言ってるのが聞こえないの?」
背後から見ると、ただの三人親子の風景なのかもしれない。

母親ひとり。同じ背丈の子供がふたり。

「まあ、双子なんて可愛いわね。羨ましいわあ。」よく言われる。

ちっとも羨ましがられる事なんて無い。生まれる前に、母親の胎内でうっかり分裂してしまったのが毎日自分の弟が母親にいびられる理由なのだから。

「着いて行くだけだから、いいでしょ?買い物に行っても何も欲しがったりしないから。」
弟の口癖である。
まだ、十二歳の子供がそう言って本当に何も欲しがらない。これ以上の我慢強さのある子供は居るだろうか。

「直にはこれが似合うんじゃない?」
大手スーパーの中にある服屋で母親と兄が服の買い物をするのをじっと見ているだけで、「欲しい。」とか「俺にも買ってよ。」とか、何も言わない。

言えば良いのに。

周りの服を見て周り、本当に気に入った物がないからなのか、少しでも欲しいという感情を出すと自分がどんな仕打ちを受けるのか分っているからなのか、見ていてイライラしてくる程何も言わない。

「良かったね。直哉。凄く似合うの買ってもらったんだ。着なくなったらでいいから、ゆずってね。」

時々、母親の居ない部屋でぽそりと聞こえるか聞こえないか位の弟の呟きが、限りなく馬鹿みたいで、限りなく可愛そうで、むかつく。

自分からお下がりで良いなんて言う十二歳の話なんて、新聞のコラム欄でも見たことが無い。


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