となりのアイツはまあまあうるさい。
プロローグ(1/1)
つい一週間ほど前。
大学進学をきっかけに一人暮らしをしていたアパートの勝手の悪さに嫌気がさし、契約更新を機会に別のマンションへと引っ越しをした。
最寄り駅から徒歩10分以内、学校へは自転車で通えて、近くにスーパーやコンビニがあって。セキュリティーもしっかりしていて、ワンルームの部屋に住む友人からは「大学生の一人暮らしには贅沢だ!」と羨ましがられる1LDKの間取りで、引っ越しは正解だったかなと思っている。
あー…でも、なんていうか、徒歩5分ですら、こういうときには結構煩わしい距離かもしれない。
ぐわんぐわんと目の前の視界が揺れる。ふらふらと千鳥足で歩道と道路を遮るガードレールを支えにしながら歩く。
なんとかマンションまでたどり着いて、オートロックの自動ドアをくぐり抜け、エレベーターに乗り込んで。
ああ、これマジでヤバいかも。早く、早くしなければ。
「あれぇ…?」
部屋の前に来て鍵穴に鍵を差し込もうとするが、なぜか上手く入らない。
向きを逆にしてみても入らない。
「なんれっ…?」
はっきりしない呂律でなんで?どうして?と独り言を呟きながらガチャガチャと鍵をぶつける。
なんで?鍵を間違えた?自転車の鍵出してる?それとも誰か他人のを持ってきてしまった?
急がなければと思うほど手元が震えてガチャガチャと金属の耳障りな音が響いた。
「…おい」
そんなとき、威圧的な男性の声が耳に入る。
「人んちの前で何してんだ、お前」
歪んだ視界の先、見えるのはまるで不審者を見るような目をした1人のスーツ姿の男性。
いやいやいや、人んちって、ここわたしの部屋なんですけど。…と、言いたくても言えなかった。
そろそろ限界が近い。口元を押さえ、その場に膝をついてうずくまった。
「おい!?」
いくら不審者を見るような目をしていたとしても、さすがに心配してくれたのか、彼は慌ててわたしの元へと駆け寄ってきた。
使い込まれた鞄を放り投げ「大丈夫か!?」とわたしの体を支えてくれる。
「う…はやく、へや…」
「いや、だからここは俺のっ…」
「はやくしないと、でるっ、うぷっ…」
「…え、」
───その後の記憶は、きれいさっぱりなくなっていた。
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