償いとアイビー
[十章](1/18)
_______________
結局、あの後は椿が荷物を取ってきてくれてそのまま早退した。
椿も、いつもの穏やかな椿に戻ってた。
キスのことなんて、忘れたみたいに。
だから、あの後の教室を私は知らない。
私のことを、色々話しているんだろう。
三宅くんが、私が孤立しないように手を回してくれたのに結局それを無下にしてしまった。
家に帰ると、誰もいなくて少し安心する。
メイクを落として、着替える。
鏡を見ると、
少しだけ、頬が腫れているのがわかった。
相良さんが叩いた痕だ。
でも不思議とそれが嬉しくて、
うっとりとそれを撫でた。
自分の部屋に入って、ベットに体を投げる。
鉛みたいに重い体が、ずぶずぶ柔らかいマットレスに沈んでいく。
ぼんやりと色々考えながら、夢と現を行き来して、私はそっと眠った。
______________
「ちぐさ。」
は、と思って目が覚める。
ゆっくりと声をした方に顔を向けると、お姉ちゃんがニコニコしてカメラを持っている。
「お姉ちゃん…?
…ん?
写真、撮ったの?」
ぼやぼやする頭の中でそう聞く。
シャッター音が聞こえたような気がした。
「そうだよ。
千草、ご飯今日は買ってきたやつでいい?」
「…ん?うん。
何買ったの?」
「…えーとね、
大雅の左手。」
「っ、!」
ガバッと勢いよく起き上がると、ニコニコ、というよりはニヤニヤしたお姉ちゃんが私にカメラを構えている。
「な、に?
冗談きつい、てか不謹慎?
ちょっ、やめて、撮らないでよ!
なに、なんなの?!」
イライラした私は
立ち上がって、お姉ちゃんを押す。
少しよろけたお姉ちゃんは一瞬真顔になって、またニヤニヤと笑い始める。
え、なに?
怖いんだけど?!
「なに、なんなの?!
お姉ちゃんなんか変だよ!!」
「変じゃないよ。ずっとこうだよ?
いつもの私だよ、千草。」
「やめてってば!!
撮らないで!」
顔を手で隠すけど、お姉ちゃんはそんなのお構いなしにシャッターを押し続ける。
なんか、すごく馬鹿にされてるみたいだ。
「やめてってば!!!」
お姉ちゃんをさらに強く押すと、よろけてバランスを崩したお姉ちゃんのトートバッグから大量の写真が落ちる。
「ひっ、?!」
全部、私?!
寝てるのとか、ご飯食べてる時とか、お風呂入ってるとき?!?こんなのいつ撮ったの?!
なんで、学校の写真もあるの?!
…おかしい、なんで、なんで?!
…大雅に殴られてる写真もあるの…!!
動けない私に、お姉ちゃんはゆっくりと近づいて私を抱きしめる。
とくとくと、お姉ちゃんの心音が聞こえる。
それに不快感を感じて、突き放そうとするけど、うまく力が入らない。
なに、どういうこと?
「…お、ねえちゃん…」
「千草、そうだよ。
ずっと、ずっとね。
ずーーーっと。
私、ずっとだよ。
ずっと千草を愛してる。
もうそれは家族の愛なんかでは語れない
ものなの。
そんなものを逸脱してるの。」
愛を、逸脱。
なんだか今日、同じようなことを
椿からも聞いた。
椿が言ってた“わたし達”って、そういう事。
お姉ちゃんと、椿ってこと、なんだね。
気づかなかった。
1番近くにいたお姉ちゃんに、こんな歪んだ愛をぶつけられていたなんて、まったく気がつかなかった。
なんで、こんな急に暴露するの。
なんで今日なの、なんで今なの?
頭がひどく混乱して、心臓が嫌な音を立てて血流が速まるのを感じる。
お姉ちゃんは、私の頭をゆっくりと撫でる。
触り方が、なんだかやらしくて鳥肌が立つのがわかった。
「この前ね、椿ちゃんと話し合ったんだよ。
大雅から望まぬ解放をされた今、
千草は真っ直ぐ壊れていく。
でも、すぐにその時が来たら
面白くないから。
徐々に、時間をかけて壊れてくれなきゃ記録に残せるものが少なくなるでしょう。
だからね、今日私と椿のことを千草に
バラしたんだよ。丁度良いことが起こったし。
急にじゃない。
ずっと計画してたこと。
千草は、本当に馬鹿。
馬鹿で、鈍感で純粋でとっても可愛い。
私がこんなこと思ってたなんてまったく気がつかなかった。
ずっとよ。
千草が生まれて来てからずっと。
なんでも一生懸命に頑張る千草も。
罪悪感に苛まれる千草も。
大雅くんに殴られる千草も。
椿ちゃんに向ける優しい瞳の千草も。
父さんに殴られても、優しく接する
馬鹿な千草も。
暴力が恋しくなって自我が
制御できない千草も。
自分勝手で、周りに迷惑かけて、たくさんの人を傷つける千草も。
全部、大好き。
大好き、だぁいすき。
ふふふ、ほんとに馬鹿ね。
写真撮られていることも
ずっと気づかなかった。
三宅くんの時は少し焦ったけど、結局千草は千草よね。唯一無二の存在。
だいすき、だいすきよ、もう
食べちゃいたいくらい。
三宅くんのおかげで、こんな千草が見れるなんて、ふふ嬉しい、嬉しい。
あの子には感謝しなきゃ、写真もデータも消してあげなきゃ。
ふふ、ふふふふ、あはははは。」
ケラケラと、面白そうに笑うお姉ちゃん。
私の体を弄る冷たいお姉ちゃんの指先は、間違いなく性的なもので、気持ち悪い。
「…やめて、お姉ちゃん…。
私、お姉ちゃんのこと嫌いになりたくない…」
「それはどっちでもいいのよ。
私のことが嫌いな千草も見てみたいもの。」
「なんで、なんで、嫌だ、こんなの嫌。
優しいお姉ちゃんに戻って、こんなのお姉ちゃんじゃない!!!」
「…馬鹿ねぇ。
じゃあ、今まで通り接すれば良いの?
だめよ、そんなの。
私、思ったの。
これ以上のたくさんの千草を見るには、私と椿ちゃんっていう要因が必要だって。
私を拒絶する千草も見れる。
ふふ、意味わからない?
私と椿の目的は、色んな千草を記録すること。
わたし達にとっての色んな千草。
唯一無二の千草。
そのためならなんだってするんだよ。
邪魔者が入ったら、社会的に抹殺しようと情報集めさせたりする。
千草のクラスの子も何人か買収してる。
高校生って単純だねぇ。
あ、監視カメラ仕掛けたりもしたよ。
全部、全部千草を記録するため。
あはははは、可愛い、可愛い。
…可愛い…」
「い、や!!!いやだ!!
離して、お姉ちゃん!離して、
離してぇえええ!!
気持ち悪い、そんな手で触らないで!
お姉ちゃんやめて!!
いや、いやだ!!
嫌い、お姉ちゃんなんか嫌い!
気持ち悪い!なんなの!!
なんなのよ!
分かんないよ!
そんなこと言われても、受け止めない!
全然わかんない!!! 」
- 91 -
前�n[*]|[#]次�n
⇒しおり挿入
⇒作品?レビュー
⇒モバスペ?Book?
[編集]
[←戻る]