償いとアイビー
[二章](1/8)


彼が視聴覚室を出て、15分後。


視聴覚室を出て、まっすぐトイレに向かって
うがいをする。





口の中、気持ち悪い。




パッと顔をあげて鏡にうつる
私の顔を見る。






前髪は極力まで伸ばして
顔はほとんど見えないようになっている。




ボサボサで、なーんの手入れもしていない。
これは、彼の命令。



目が悪いからコンタクトだったけど
これも彼の命令でメガネに変えた。



見た目に気を使うこと
メイク、カラー、パーマもダメ。



教室で目立つようなことはダメ。



クラスメイトから話しかけられても
基本はムシ。
言葉を返す場合は、冷たく、愛想悪く。



自分から話しかけるなんてもってのほか。



制服を着崩すのもダメ。



家族と彼以外と連絡とるのもダメ。



彼からの連絡には即レス。
3分すぎたらペナルティ。



呼ばれたらすぐ行く。









コレは、全部彼の命令。




私がどうしてこんな、
理不尽な命令に全て従っているか。





それは、私が彼にこうまでもしないと償いきれない罪があるから。




彼に、果てしない罪悪感を感じているから。


__________________________________…




あれは中学3年生のとき。



「ちょっと大雅、それ本気なの?」



あの頃の私は、
自分で言うのもあれだけどクラスでも中心人物で、
毎日学校が楽しかった。



クラスでも人気で、すごくモテてて、野球部でもキャプテンだった大雅と幼馴染ってこともあって、私の人気には拍車がかかった。



それが変わったのは
いつも通り、2人で下校してたときのこと。



受験生だから、進路の話をしてたの。









「なんだよ、千草。

お前なら素直に応援してくれるって思ったんだけどなぁ?」








そういって大雅は
意地悪な笑顔で私の顔を覗き込んでくる。








「そういうわけじゃないよ!

だって、大雅って成績すごく良いじゃない。

てっきり私と一緒の高校目指してると思ったの!」






「あ、千草!
俺と違う高校は嫌ですか?

寂しい?」






「なっ、。違うわよ!!」








まあ、
確かに最初はそこ目指してたよ。

でもさ、俺やっぱ野球やりたくて。
せっかく県1強豪から推薦貰ったし。」








「そっかぁ
大雅、野球頑張ってたもんね。

やっぱ野球、好きだね。」







「うん、好きだよ。

こんなこと言うと笑われるかもしれないけど
プロ目指してんだよね。

推薦貰った高校、毎年甲子園出てるし。
ちょっとでも夢に近づきたいんだ。

そんなに、甘くないのは分かってんだけどな。」








大雅なら、なんでも出来そうな気がするよ。」








「まあ、千草ちゃんが惚れた男だからなぁ?」








「な?!何いってるのよ!!違うわよ!!」














察しの良い人は分かるでしょうね。




これ、この会話。




皮肉なことに、これが死亡フラグだった。




いつものように
じゃれてただけだったのよ。




だって、
まさかあんなことになるなんて
思わないでしょ。




照れ隠しで軽く叩いたり押したりするなんて、
誰でもするでしょう。










「もーっ!勝手なことばっか言って!」







ドンって押しのけたのよ。
大雅を。




軽くと思ったけど思ったより力が入って




大雅の体は道路側に傾いた。




小説とか、マンガでよくあるみたいに。




そこにトラックが通った。




スローモーションに見えたそれは、




今でも夢に見る。











バキャッ、
ていうなんとも形容しがたい音が聴こえて
大雅の体が大きくしなった。




反対車線側に強く投げ出された大雅。









そこからあんまり記憶がない。



大雅の左手は、トラックのタイヤの下敷きになって
損傷激しかった。




だから、切断せざるを得なくて。




大雅の、利き手。



ピッチャーだった、大雅の利き手。




私のせいで、大雅は夢を諦めざるを得なかった。












次会った時は、病院で。



私は、大雅と大雅の家族に土下座していた。








「申し訳っ、ございませんっ!!」








千草っ、ちゃん。

お願い。今は、それを見ても何にも言えない。」







大雅のお母さんが、ハンカチで目元を抑えながら苦しげにそう言った。





「千草ちゃん
今はそっとしといてあげてくれないかな。

大雅も、今手術明けで体力戻ってないから。」






大雅のお父さんが、冷たく感情が籠らない声でそう言った。








「父さん、母さん。」








ふと、大雅が口を開いて掠れた声を出す。







「た、大雅」







「ちょっと、千草と2人にしてほしい。

下の売店で飲み物でも買ってきてくれない?」







「でも大雅







「大丈夫。」







にこり、と大雅は力なく笑った。







「わ、分かった。
じゃあ、千草ちゃんちょっと行くわね。」




おばさんは、不審そうに私の方を見て、変なことするなよとでも言いたげに病室を出て行く。






は、はい。」







静かにドアが閉められて、病室に大雅と2人きりになる。


大雅は、ジッと窓の外を見つめている。


空気が張り詰めていて、たまらず私は大雅に話しかける。





「大雅、私っ_______




ゆるさない。」










ドッと、
体に氷水をかけられたような
血が逆流するような
冷たい、感覚だった。





今までに見たことない、大雅の冷たい目。



動悸が激しくなって、冷や汗が出る。










「た、いがっ」








「呼ぶなよ。俺の名前。」









っ、っう、」









今まで好意の目を向けられて、ずっと
小さい頃から一緒にいた人にこんなこと

言われるなんて。










「千草ぁ。


どうする?俺、左手なくなっちゃった。

ほら、見ろよ。俺の左手。
あ、ないから見れないか。
ははは。」









大雅が、色のない目で肘上から切除腕を軽くあげて私に見せる。






罪悪感で、気が狂いそう












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