短編集(風)

◇[譲れない物](1/4)
駿様、リクエスト

 暇――

 それが、主な理由であった。

 リゼルは今日その「暇」という理由で、エリザのもとへ訪れていた。そして、ストレス発散という名の愚痴をこぼしていく。一方エリザは、柔和な表情を浮かべ続けていた。

 流石、聖女様。許容量は、他の者達より多かった。それに相手がリゼルなので、苦とは思わない。

「それでしたら、今年は――」

「それは、大丈夫。でも、大量の雪が降るだろう。それと、気を付けた方がいい。一階が沈む」

「そ、それは……」

 リゼルの言葉に、エリザは目を丸くしてしまう。今まで、安定した冬の時期を保っていた。

 しかし、今年の冬は――それを聞いたエリザは、冬が訪れる前に備蓄を増やし建物の修繕を行わなければいけないと思いはじめる。そうしなければ、大量の死者が出てしまうだろう。

 それだけ、レスタの力は侮れない。

「春の時期を早くする」

「いいのですか?」

「レスタの場合、油断すると他の時期まで干渉してしまう。初秋に雪が舞い、初春になっても大量の雪が降る」

「困ります」

 下手をすれば、一年の半分が雪に沈んでしまう。リゼルの話でエリザは、春を司る精霊の性格を知っている。大人しくて物静か。そして、自己主張はしない。

 それが関係し、レスタに逆らうことができないだろう。そうなってしまうと、春の時期も乗っ取られてしまう。

「そうならないように、言っておく。しかし、言うことを聞けばいいが……最近、我儘になってきている」

「レスタ様も、お変わりになってきているのだと思います。リゼル様も、お変わりになっていますので」

「そう?」

「はい」

 エリザの言葉にリゼルは、頬を微かに赤らめていく。また一種の照れ隠しか、視線をテーブルに向ける。

 徐に、ティーカップの中に紅茶を注いでいく。するとそれを見ていたエリザは何を思ったのか、そのティーカップの中にミルクを注ぎ入れたのだ。刹那、リゼルの表情が変化していく。

 そして、何をしているのかと愚痴を言う。無論、何故そのように言われるのかエリザは気付いていない。


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