◇[The rouse](1/5)
名雪様、リクエスト
漆黒の闇が染めている空を、1人の少年が眺めていた。これといって特に目的はなく、強いて理由を上げれば、瞬く星が美しいと思っていたからだ。
心地よい微風が、少年の深紅の髪を撫でる。それは激しく燃える炎のように揺らめき、全てを焼き尽くすという印象を与えた。
少年は、夏を司る精霊。灼熱の季節を統括し、植物達に逞しく成長する期間を齎す。
そして可の者に歯向かう者に裁きを与え、全てを焦土と化す。それが少年の役割であり、使命だった。
「どうしたの?」
ふと、可愛らしい声音が聞こえた。その声に少年は振り返ると微笑を浮かべつつ「何でもない」と、答える。
しかし声を掛けた人物は、少し不満そうだった。頬を膨らましご立腹の様子。流石にそのような表情をされると少年は弱く、肩を竦めながら考えていたことを話す。
「昔のことを思い出した」
「昔のこと?」
「そう、俺達が生まれた時の……」
精霊は、白き竜によって生み出された。故に、父親であり母親のような存在。
だが、少年もそして声を掛けた少女もそのように思っていない。我等が創造主――それ以上でもそれ以下でもない。
少年――ラグルはフッと笑みをこぼすと、自身の妹レイシアの頭を撫でる。彼女も精霊であり、春の季節を司る。精霊の間に、兄弟というものは存在しない。
しかし2人はひとつの精神体から分裂した、いわば双子のようなもの。その為、その絆は他者が驚くほど強い。
大好きな兄に撫でられ、レイシアは嬉しそうに微笑む。そんな妹の姿にラグルは、お茶目な一面を見せた。それは、妹の頭を思いっきり撫ではじめたのだ。
いきなりのラグルの行動にレイシアは両手でラグルの手を掴むと、ムスっとした表情を浮かべる。そして、睨み付けた。
「兄様!」
「悪い。ついつい」
「せっかく綺麗に梳かしたのに」
レイシアは乱れた髪を整えつつ、抗議していく。
一方ラグルは「可愛い妹だから仕方がない」ということを懸命に伝えていくが、レイシアはその訴えを簡単に受け入れようとはしない。
プイっと横を向き、ただ懸命に髪を梳かしていく。シスコン要素が強いラグル。
その為レイシアにこのような態度を見せられると、表情には出さないが相当のショックを受けている。その為、激しくへこむ。
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