短編集(風)

◇[懐かしき場所](1/12)
土方 あしこし様、リクエスト

 今日の空は、機嫌が良かった。今までの1週間、空は不機嫌な一面を見せ、大粒の雨を降り注いでいた。しかし、今日は違う。

 濃い青色の空には雲は浮かんでおらず、鳥達は日差しを浴びながら優雅に飛ぶ。生き物の全てが、この快晴を喜んだ。そして、全身に日差しを受け止める。

 修道院の窓は一斉に開かれ、新鮮な空気を替えと清々しい日差しを入れ込む。無論、エリザが管理している書庫でも、空気の入れ替えが行われていた。それに、1週間ぶりの快晴。

 これにより、溜まりに溜まった本の虫干しができる。またこの書庫自体、掃除をしないといけない。

 その為、朝から忙しかった。エリザは大量の本を抱え書庫を駆け回り、手伝いをしているユーリッドは、虫干しする本の名前を紙に書き記していく。

 無論、この2人以外は誰もいない。

 本来なら、エリザ以外の修道士や修道女が仕事をしないといけないのだが、埃っぽい書庫。

 真面目に仕事を行う者は、残念ながら存在しない。全てエリザが1人で行い、ユーリッドが手伝ってくれなければ、仕事が終わることはない。それは、とても情けない事実であった。

 しかし、エリザは文句を言うことはしない。半分「仕方ない」と、諦めていた。それに、ユーリッドがいる。それだけで、エリザは満足してしまう。

 何より、異性と2人っきりになれることが嬉しかった。だからこそ、書庫の掃除や管理を嫌がらずきちんとこなしていた。

 ふと、書庫にユーリッドの声が響く。その声にエリザはユーリッドのもとへ向かうと、名前が記された紙を受け取った。

 そしてどのような名前が並んでいるのか、ひとつずつ名前を読み上げていくと、急に訝しげな表情を浮かべた。その表情に、ユーリッドは首を傾げてしまう。

「これで、いいかな」

「は、はい。大丈夫です」

「何か、不都合があったのかと思ったよ。結構な量があったからね。纏めるのが、大変だったし」

「いえ、そのようなことはありません。ただ、書庫にこのような本があったのかと思いまして」

「このような?」

「はい。この本です」

 エリザが指し示した場所に書かれていた文字は、地理関係の本であった。修道院の書庫ということで、普通は神話関係の本が置かれていると思ってしまう。

 だが書庫にあったのは、全く関係のない本。長い年月この場所の管理をしているエリザであったが、この本は意外だったという。


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