田島先生と坂田君の3年間。
一年生6月(1/7)
6月に入り、制服は夏服に切り替わる。
みんな真っ白だから気分は爽やかになるけれど、今は梅雨真っ只中なわけで。
梅雨はあまり好きじゃない。
「あーもうせっかくアイロンしてきたのに…」
教諭用トイレの鏡の前で溜息をつく。
そう、私、田島 麻里子は、極度の癖毛である。
矯正してるし、更にヘアアイロンでストレートにしているけれど。
こうして湿気を含むとどうしてもうねりが出てくるわけで。
「戻りそうにないな…」
いっそパーマでもあててやろうかと投げやりになってきた。
鏡と睨めっこしていても直るわけでもないし、いちいち気にしていられない。
「はぁ…」
諦めてトイレを出る。
私の悩みの種は梅雨だけではない。
「先生」
「…なぁに?坂田君」
振り向かずとも分かる。
「先生って癖毛?」
ぐ、痛いとこ突いてきやがる…。
「…そうよ、悪い?」
「怒んないでよ、可愛いじゃん」
このたらしめ。
そりゃ授業は毎回寝ずに真面目に受けているけれども。
毎度毎度出会うたび絡んでくる。
生徒との触れ合いは大事にしたいし、こうして話しかけてくれる生徒は可愛いけども。
「俺はこっちの先生も好きだよ」
「はいはい、触らないの、早く教室戻りなさい」
「はーい」
スキンシップが多い。
別に過剰に気にするタイプではないんだけど、そうやって絡んだ後に必ずやってくる…あ、きた。
「先生、圭悟君とどういう関係なんですか!」
坂田のことを好きな女子。
そりゃそうよね、好きな男子が10歳も上の女(しかも教師)と無駄にベタベタしてたら。
私だって一言物申しに行くわ。
「どういう関係って…皆と同じ可愛い生徒でしかないよ」
「でも、圭悟君といつも絡んでるじゃないですか!前好きって言われてるの聞いたし!」
「からかってるだけでしょ」
もう何回同じ返事をしただろう。
イケメンはこうもモテるのね、じゃ済まなくなってきたんだけど。
生徒からの好意は嬉しいけれど、こういう面では少し迷惑でもある。
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