ちぐはぐ (1/10)
「尚…。」
あたしは、慌てて彼の傍に駆け寄った。
「急にどうしたの?今日、来るって言ってた?」
「さっきメールしたけど、気付かなかった?
今日バイト休みになったから、学校帰りにそのまま此処に来たんだ」
尚は、表情を変えずに淡々と言った。
携帯はバッグの中に入れっぱなしで見てなかったから、全然気付かなかった。
「-日高さんの弟さん?」
後ろから、遠野さんがあたしたちに声を掛けてきた。
尚が透明感のある涼しげな瞳を僅かに細めて、苛立ちを隠せないようにやや低い声で言い返した。
「彼氏です」
その回答に、遠野さんは、少し意外そうに切れ長の眼を見開いた。
「あ、そう。間違えて悪かったね。
日高さんの隣の701号室に住んでいる遠野です」
「…吉沢です」
「遠野さんは大学の先輩でもあるの」
少し機嫌の悪そうな尚にそう告げると、遠野さんは余裕ありげな笑みを浮かべる。
「じゃ、また」
遠野さんは綺麗な口角を上げて軽く手を上げると、そのまま後姿を見せて701号室の部屋へと入っていく。
あたしもバッグから鍵を出して、ドアを開ける。
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