致死量の砂糖菓子
[浅野由美子 7](1/5)







鍵を開ける。



やけに空虚に響いたその音に
ゾワリ、と嫌な汗が一筋 背中を伝った。

さほど暑くもない 湿度の低い日に
こんなふうに汗をかくことなんてほぼ無い。

心臓の鼓動が 少しずつ速くなる。



自分の指先が僅かに震えていることに
私自身 気付いていなかった。

カタカタと小刻みに振動する
貧弱なその指先を もう片方の手で
ギュッと掴む。




私はこのちっぽけな手で
なにを どうしたいのだろう。

なにが掴めるというのだろう。



頭はそこそこいいとはいっても
どこにでもある そこそこのレベルの高校で

容姿に自信がないことは
今更特記するまでもない。


今日だって、 地味な格好をした私を
一瞥して こちらにばれないようにそっと
胸をなでおろした彼女は
まるで年下に見えない姿だった。


こちらにばれないようにしていたのだろうが
あきらかに宿った安堵の表情は
悔しいけれど 、私が 負けた、と
思わざるを得なかったからだろう。




誰かが陰で 他人にランク付けしているのを
うっかり小耳に挟んだことがある。

特別容姿が良いというわけでもない子達の
ないものねだりと 優越感の確保のために
行われる作業みたいなものだ。


その言葉を借りるならば
特段 容姿が悪いわけでもない、らしい。

けれど 地味、なのだと。
所帯染みた雰囲気があるのだと。

それが褒め言葉に聞こえるほど
軽い頭はしていなかった。

今更ながら 隣にいる彼女が羨ましくなる。
同時に 不安にもなった。



自分を選んでくれないかも、なんていう
薄っぺらいことではない。

彼に会えないかもしれない、という
薄いけれど 最も私と彼女を傷つける
そんな状況を、頭に描いて、消した。






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