致死量の砂糖菓子
[浅野由美子 6](1/5)






「 あたしは、行きません。 」


迷いのない声で そう、ひとつ
まっすぐ告げられたとき

ひるまなかったといえば 嘘になる。



気付かれないように
私はそっと ちいさく心の中で呼吸した。

二酸化炭素も酸素も 、
イメージ上の呼吸なのだから
やりとりされないはずなのに

周りにあったすべてを呑み込んだような
そんな 感覚を覚えたのはどうしてだろう。

無意識のうちに 私はどうにかして
一身に背負ったこの緊張を
外に追い出そうとしていたのかもしれない。




どうか 、 どうか。


この子を説得しなければ。

どうにかして 、 ふたりで
北見さんの元へ行かなくては。



私の中にいる私が
矢継ぎ早にそう訴え続ける。

分かってるんだ、そんなこと。

それでも ふたつも年下のこの子からは
揺らぎない自信と ブレない感情しか
私は感じることが出来なくて



ただただそっと 頭のなかで
思考を巡らせることしか出来ずにいた。





だめだ、このままじゃ。

このままでは何も変わらない。
今と何ひとつ変わらない。


なにか、 なにかひとつ 。 言わなくては、





「 _______逃げるの、 ? 」





そのとき零れ落ちた 私のことばのひとつは
一体どのくらいの影響力で

あの子に飛びついたのだろう。






- 56 -

前n[*][#]次n
/90 n

⇒しおり挿入


⇒作品?レビュー
⇒モバスペ?Book?

[編集]

[←戻る]