「 あたしは、行きません。 」
迷いのない声で そう、ひとつ
まっすぐ告げられたとき
ひるまなかったといえば 嘘になる。
気付かれないように
私はそっと ちいさく心の中で呼吸した。
二酸化炭素も酸素も 、
イメージ上の呼吸なのだから
やりとりされないはずなのに
周りにあったすべてを呑み込んだような
そんな 感覚を覚えたのはどうしてだろう。
無意識のうちに 私はどうにかして
一身に背負ったこの緊張を
外に追い出そうとしていたのかもしれない。
どうか 、 どうか。
この子を説得しなければ。
どうにかして 、 ふたりで
北見さんの元へ行かなくては。
私の中にいる私が
矢継ぎ早にそう訴え続ける。
分かってるんだ、そんなこと。
それでも ふたつも年下のこの子からは
揺らぎない自信と ブレない感情しか
私は感じることが出来なくて
ただただそっと 頭のなかで
思考を巡らせることしか出来ずにいた。
だめだ、このままじゃ。
このままでは何も変わらない。
今と何ひとつ変わらない。
なにか、 なにかひとつ 。 言わなくては、
「 _______逃げるの、 ? 」
そのとき零れ落ちた 私のことばのひとつは
一体どのくらいの影響力で
あの子に飛びついたのだろう。