赤ばかりのなか、
ひとつだけ浮き出る黄色いリボン。
廊下に出て、先輩が話し始めるまでの数秒間、あたしはそれを睨み付けていた。
「…あの、比嘉、さん」
「…なんですか」
ぴしゃり、
叩きつけるように返事をする。
少しでもこのひとが あたしを恐れていてくれればいい、だなんて
あたしはまだそんなことを考えてしまう。
……彼女が
あたしを怖がるほど、
そこまで気の弱い人間じゃないことは、この何度かの会話で知ってはいるけれど。
「お願いが、あるの」
……なんだか、
やけにまっすぐな瞳。
強い意志が籠ってるみたいに見える。
あたしは返事の代わりに、視線をぶつけた。
「あのね、」
少し、迷ったように。
だけれど 決心するみたいに。
焦らしながらゆったりとくちを開いた先輩は、
「一緒に、行ってほしいところがあるの」
と そう、言った。
「行ってほしいところ、ですか」
オウム返しすると、 こくり とうなずく先輩。
「…あのね、」
「___イオのところ、ですか」
彼女の声を遮って
そう予想する。
先輩と、私。
このタイミング。
何処へ、とは言わなくたって、私を連れていきたい場所なんて たかが知れている。
それが分からないほど、私は鈍感じゃないし、
馬鹿でもない。
びっくりしたように目を丸めて、
そうして頷いた先輩。
「そう、北見さんのところにね、
行きたいの」
___イオのところへ行こう、
と
いつかは そんな展開になるのかもしれない、と 予想ができていた。
こんな曖昧な関係には
終わりが存在すること、
あたしも先輩も、分かっていたから
だからいつか、
どちらかが 3人で話し合うことを提案するのかもしれない、と 思っていた。
……だとすれば
それを持ちかけるのは、恐らく先輩のほうだろうということも。
だから、
あたしも最初っから、返事は決めていた。
…自分を守るためだけの、
そんな醜い決心を。
「…あたしは、行きません」