「 浅野先輩って 貴女ですよね 」
凛とした声で私にそう告げたその子は
はっきりした目鼻立ちをしていて
堂々とした雰囲気からか
同じくらいの身長のはずなのに
随分と背が高く見えた。
ふたつ下の学年の赤リボン。
髪の色も スカートの丈の長さの
ひとつひとつが すべて
自分の容姿に最も相応しいものを
選んだ模範解答のような子だ。
後輩であろう彼女に
まっすぐそう告げられて
躊躇いがちに首を縦に振る。
迷うことなく 彼女は言葉を続けた。
「 単刀直入に言います。
イオと別れてください 。」
イオ、と呼ばれたその名前が
愛おしい彼氏の愛称なのだと気付くまで
要した時間は十数秒。
「…北見さん、のこと?」
「そうです、北見伊織。
北見さんなんて呼び方してるくらいなら
まだ 引き返せる関係程度ですよね、
イオは私の彼氏です。
なんてイオに言いよったか知らないけど
ひとの彼氏誑かすなんて サイッテー。」
吐き捨てられたガムみたいに
くしゃりと潰された言葉の粒子が
理由を持たないまま私を抉る。
突然の出来事に 思考が未だ追いつかない。
_______たぶん 、 この子は。
この子は自分より私が 劣っている って
思ってるのだろう、きっと。
哀しくて醜い事実は
目の前をすり抜けて
やけに客観的に見えてきた。
私は熱を持たない声で 彼女に返事を紡ぐ。