致死量の砂糖菓子
[比嘉麗子 2](1/5)





決まって『北見伊織』という人間に心を持っていかれてしまうような、そんな瞬間がある。

ハンドルを回してるときの横顔だとか
煙草を吸うときの、少し遠慮した姿勢だとか
あたしが我が儘を言ったときの苦く笑う表情だとか
情事のときの熱っぽい瞳だとか

そんな風に
浅くからディープなところまで、
彼が魅力的であることは間違いない。


それはもちろん否めないのだけれど

そんなことすら一瞬にして霞んでしまうほどの、

多分あたしだけにしかわからない
イオの魅力。





あたしは、イオがミネストローネを食べてる姿に、いっとう弱いのだ。




「なんだよ、レイ」


自分のものに手をつけないままに
彼のスプーンを動かす姿に魅入っていると

イオは眉を下げて笑う。

そんなに見られてたら食べにくいよ、って
恥ずかしそうに目を逸らした。


なんとなくあたしも気恥ずかしさが生まれてしまって

誤魔化すみたいにして
海老のビスクを口に含む。


なめらかなクリームが、口内を支配した。



「あ、美味しい」

思わずことばを溢すと、
イオは嬉しそうに頬を緩める。


「ほんと?良かった」

気に入ってくれるか、不安だったんだよなぁ。
ほっとしたみたいな、
満足しているみたいな、
そんな表情。


こうやって、イオがあたしのことを想ってくれてるって感じる瞬間と

あたしがイオを愛しい、と思う瞬間が

リンクするのが、幸せで仕方がない。





オレンジ色の間接照明と
つやつやした漆塗りのテーブルと
囁くほどの音量の洋楽。
ミネストローネ、
ビスク、
恋人。


あたしたちが存在するにはあまりに良い雰囲気。

好きなものだけで構成されたその空間にいると、
いつもより、言葉が躊躇いなくあふれてくる。



流れに任せて、あたしは
彼と出逢ったころの、
ほんのちょっとした思い出を口にした。






「イオって、いつもミネストローネ、選んでたよね」






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