WAR
[命の重さ](1/1)
兵士として働きはじめて二年がたった。死への恐怖は未だにあるが、仲間が死ぬことへの悲しみは感じなくなった。

俺はギリギリの状態でなんとか日々を生き続けていた。

そんなある日。俺は戦場で初めて人を殺すことを実感した。

今までの銃撃戦は敵がうっすらとしか見えないことが多かった。時折はっきりと頭を撃ち抜くのが見えたりするが、それが自分のやったこととは思えなかった。

その日は激しい銃撃戦だった。俺はなんとか生き延びて、ベースキャンプに戻る途中だった。そんな俺の目の前に負傷した敵兵が倒れていた。このまま連れ帰って拷問という手段もあるのだろうが、こんな場所で負傷している兵士が役に立つ情報を持っている訳もない。俺は腰から拳銃を取り出してスライドを引き、トリガーに指を当てた。

負傷兵は何かを言っているようだが言葉が 分からない。しかしそれでも命乞いをしていることは分かった。涙を流しながら両手の平を合わせて、必死に頭を下げながら何かを言っている。

トリガーを引く指が膠着する。俺は自分の手で人を殺すんだ。泣きながら頭を地面に擦り付けて、命乞いをする敵兵の頭を撃ち抜く。そうこいつは敵なんだ。人ではなく敵だ。敵を殺すことに迷う必要はない。

何度も言い聞かせた。こいつは敵だ。と頭の中で何度も何度も繰り返した。

そして俺は引き金を引いた。

銃声と同時に敵兵の頭に穴が空いた。後頭部から入った弾頭は額をぶち破り地面に着弾した。地面に散らばる血液の中に薄ピンク色の肉片が見えた。

強烈な吐き気が襲ってきた。自分で人を殺した。そう強く実感した。そして自分の手は既にドロドロに汚れきっていることを実感した。

撃ち殺した敵兵の胸元にキラッと何かが光った。頭の方は見ないように近づいて、胸元を探ると内ポケットからペンダントが出てきた。どうやらペンダントのチェーン部分が出てきていたようだ。

真っ青な宝石の装飾されたペンダントの中には、写真と一枚の紙切れが細かく折られて入っていた。写真は恐らく彼の家族とのものだ。美人の奥さんらしき人物とまだ赤ん坊の子供。そして俺の目の前で死んでいる人物の満面の笑みがその写真には写っていた。そして折り畳まれた紙切れには彼等の言葉で何かが書かれていた。

俺はその紙切れをペンダントに入れ直して、そっと胸元の内ポケットに戻した。キャンプに紙切れを持って行けば内容が分かるだろう。しかしもしもその内容が分かってしまったら、自分を正気の状態で保つ自信がなかった。だから元に戻した。

最後に男の死体に頭を下げて帰路に着いた。



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