1/60 『心』 いつの間にか眠っていたと気付くまで、かなりの時間を費やした。 自分の叫び声で目覚めた凪子は、どこからが夢なのかはっきりしない意識の中、泪を拭くこともせず声をあげて泣いた。 記憶の中のどの位置にいる凪子が、今現在の自分自身なのかがはっきりしない。 (父さんが死んだのは夢だったんだ……) 一瞬、安堵した後、ソファに伸ばした足の間にすっぽり収まっている風太郎の重みに気づき、また泪がこみ上げる。 (……風太郎は、父さんが死んでから寂しくて飼い始めたんだ……) 部屋の電気もテレビも、結局のところ、凪子を何かから守る役目などする気はないらしく、ただスイッチの指示のみで活動していたに過ぎない。 恐怖心は無かった。 『お父さん』と、泣き叫んだ理由を記憶のなかで後戻りしながら探した。 父の死を目前にして、ただただ、悲しくて泣いたことは思い出せた。 目覚める直前の映像は引き出せない。 生々しい縫い痕が、父の喉仏から鳩尾まで真っ直ぐ伸びていた映像ばかりが蘇った。 |