Say Hello 〜しるし〜
母親(1/8)
*〜*〜* (シンラside)
激痛が全身を貫いて、悶えて。
中休みのように、しばし痛みが引く。
その間に、色々なことが頭を巡る。
……どうして、こんなことに……?!
荒い呼吸を少しでも整えようとしても、数分でまた次の痛みに襲われる。
いっそのこと気を失えたらいいのに、楽になれるのに。
防護服でゴテゴテにかためた医師いわく、薬の類が全く効かない状態らしい。
麻酔も一度試みてもらったようなんだけど、どうやら意味をなさなかったようだ。
……最初は、アイリの顔ばかり浮かんだ。
また泣かせちまった、その思いがひどく自分を責めた。
そして繰り返される悶絶……それは確実に自分の生気を搾り取り、気力も体力も憔悴させていった。
……もう何度、激痛の波を通り超えたのか……痛みが引いていき、ぼんやりとした思考が戻ってきた際に。
不意に、あまり思い出さなかった人の顔が、浮かんだ。
……あの人も、死ぬ、時は……こんなに、……苦しかった、のかな……
小さい器しかなかった自分、その自分の思いこみから、ずっと拒み続けていた母親。
苦労ばかり重ねた母は、今年の4月に病に倒れ、亡くなった。
……もっと、優しい言葉をかけてやれば良かった。
そして、幼い頃の思い出の中のように、優しく笑っていて欲しかった。
…………母、さん……!
思わず心の中で、呼び掛ける。
そしてまた、無慈悲に襲い来る激痛。
情けないけれども、根をあげてしまいたくなる。
…………もし、も……こんな、親、不孝者、を……許して、くれるなら。
俺の、背中を……こっちの、世界に向けて。
強く、押して……欲しいんだ。
俺、まだ……そっちに、行く訳に、いかねえ……!
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