『あきちゃん』
[◇新たな犠牲](1/1)
庸平が目を覚ましてから一週間がたった。
その後庸平の証言によりミカ達の無実は証明されたが、ミカ達には安心出来ない日々が続いている。
あれ以来、何もしてこない『あきちゃん』に逆に不安を感じてしまう四人だったが、とにかく大学へと向かっていた。
晶仁の実家に寝泊まりしているので登下校も一緒である。
「親父がさ、あれ一度試してみるって」
晶仁がミカの手を引きながら話しだす。
自分の腕に絡み付いたままの千夏と、首を傾げたミカを見て、庸平が説明する。
「あぁ……あれってのは古くから伝わる悪霊供養の方法でな、菩薩って人を降ろして霊を持ってって貰うんだよ。
まぁ供養って言うより無理矢理あの世に連れてって貰うっていうか……地獄にね」
「菩薩?」
そう問うミカに、晶仁が説明する。
「簡単に言うと護ってくれる神様だな」
「へぇ……」
と納得する千夏。
「でもさ、それ失敗したらどうなるの……?」
と不安そうに晶仁を見上げるミカに、晶仁が言う。
「わからない……。でも、菩薩様が負けるなんて事絶対ねえから!心配すんな」
(まさか、一番霊力が低い人が人形の代わりに連れていかれるなんて言えないよなぁ……)
と、庸平と顔を見合わせる晶仁だった。
「でも庸平君、なんでそんなに詳しいの?」
ミカと千夏の問いに、
「あぁ俺も明史さんに鍛えられてたから」
バコ。
「いって!!!」
「嘘つくなアホ。
こいつはただのオカルトマニアだ……」
ちなみに“明史さん”とは晶仁の父親である。
「……そうなんだ」
苦笑いのミカ。千夏は白い目で庸平を見る……。
(ミカがいれば勝てる。
あの夢の女……間違いない)
晶仁はトコトコと隣を歩くミカの頭をぽんぽんと叩き、手を振って校舎に消えた。
放課後、峯引寺――――
人形供養のために使用する真っ白な部屋で、白い服を着た4人は正座で座っている。
晶仁の父親と十人の巫の前の机には、一体の大きな藁人形が置かれていた。
「それでは、菩薩を降ろします
黙祷。」
ミカ達4人と、「千早」と呼ばれる白装束を着た十人の巫が、晶仁の父の声で一斉に俯き、合掌する。
「招来……。
菩薩よ我が声を聞き給え
我は請う
我が声に従いてこの座に居だて
そしてこの者達に憑く人形の魂を地獄へ導け
招来……!」
十人の巫と晶仁の父親が念仏を唱える。
その光景は異様で気味が悪かったが、ミカ達はこの戦いが終わる事を願い、固く目を閉じていた。
突如、机に横たわっていた藁人形が痙攣し、暴れだす。
そして、藁人形から『ギャハハハ!』という笑い声が聞こえてきた。
今藁人形の中では、菩薩と『あきちゃん』が戦っている。
笑い声や怒号は、晶仁達が思ったよりも長く続く……。
『あきちゃん』の執念は、ミカの受けた苦しみに等しい。
ミカの受けてきた苦しみが痛い程強かったと言うことだ……。
藁人形が一層激しくのたうちまわり始めた時、晶仁の父親と千早が一斉に阿弥陀如来を唱え始める。
「阿毘羅吽欠娑婆呵(アビラウンケンソワカ)阿毘羅吽欠娑婆呵、阿毘羅吽欠娑婆呵、阿毘羅吽欠娑婆呵、阿毘羅吽欠娑婆呵……………」
ガタっ!!
人形が大きく弾け飛び、痙攣が収まったのを見届けると、晶仁の父親は経を唱え、
「散!」
と締めくくった。
極度の緊張が解けたミカ達はガクっと肩を下ろし、ゆっくりと呼吸を整える。
……全てが終わったかのように思えた。
が
「おじさん!千夏が!!」
一同が顔を向けると、千夏が
「ヒヒッ、ヒヒッ!」
と笑いながら、白目を剥き自らの胸や顔を爪で引っ掻いている!
慌てて晶仁の父親達が阿弥陀如来を唱え始めるが、今度は晶仁の父親の体がよじれ始めた……!
「親父!くそっ……
ギャーティギャーティハーラ…」
晶仁が叫んだ時、ミカが突然床に崩れ、『あきちゃん』の声が聞こえた。
『アハハハ。しつこいなぁ。
ママ〜、あきちゃん今凄く怒ってるんだよ〜』
何故か息が上手く出来ないミカは、息も絶え絶えに懇願する。
「……お願い…………もう止めて!!……」
薄くなる酸素に、ミカはついに意識を失ってしまった。
「ミカ……!くそッ、庸平!!
ミカ叩き起こしてくれ!!コイツが居ねぇとヤバい!!」
「お、おう……!ミカ!!起きろ!!おい!!」
何故気絶したままだとまずいのか、何が何だか分からないままミカを揺すり動かす庸平に、晶仁の念仏と怒鳴り声が響く。
「阿毘羅吽欠娑婆呵……親父!!しっかりしろ!!負けんな!!!阿毘羅吽欠娑婆呵……阿毘羅吽欠娑婆呵…………」
その間も晶仁の父親の体はどんどんねじれ、そこがブチっ、バキっと嫌な音を立て始める。
「ぎゃぁあ!!!!!!!」
「親父!!!!!」
晶仁が叫ぶ必死の呪詛も空しく、晶仁の父親の上半身は一周捻られてしまった。
「あ゛〜あ゛〜……ひゃひゃっ……びゅりゅ……ひひっ……」
自らの舌を噛み切り、白い床へと口から絶え間無く落ちて広がる黒い血の海をピチャピチャと叩いていた千夏は、楽しそうに自らの顔を殴る。
「おい!!千夏!?」
庸平が急いで羽交い締めにするが、殴ろうともがく手は止まらない。
『はははは。
なにしてんのさおに〜ちゃん、このお姉ちゃん、もう死んでるよ〜』
「んだと!?」
何言ってんだこの人形?!
現に今も暴れてる……暴れる千夏を押さえ付けながら動脈に手を当てた庸平の顔が歪む。
「嘘だろ……」
……脈が無かった。
『キャハハハハ!!これに懲りたらもう無駄なことしないでよね。
あきちゃん、まだ準備があって忙しいんだーー。
でも、千夏おねーちゃんかわいそうだね〜。あっ、
これやったの私じゃないからね?
香織おねーちゃんだからねー。ギャハハハハハ!』
ミカが目を覚ました時、白い部屋は二人の真っ赤な血で染められてしまっていた。
千夏と晶仁の父親は、その場で息を引き取った。
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