『あきちゃん』
[◇もう一つの愛](1/1)
『わぁ〜!ぴったり〜』
『あきちゃん』は早苗の目を自分の失われたそこに入れ、満足げに笑った。
そして、香織の家に向かう。
香織―――――
スッ……。
花瓶に差し替えられた真新しい花。
香織は今、庸平のお見舞いに一人で来ていた。くすんだ花瓶の花を捨て、そっと未だ目を開かない彼のベッドに座り込んだ。
手術は無事成功し、庸平は一命を取り留めたのだが、未だに意識は戻らない。
「早く起きなさいよ馬鹿」
返ってくるのは規則的に鳴る電子音。
沢山の管が繋がれた庸平の手を握り、彼の顔を辛い面持ちで見詰めていた香織だったが、やがて立ち上がり、鞄から取り出した手紙をそっと枕元に置き、病室を出た。
雨の中家に帰り化粧を落とし、今日あった信じられない出来事達を思い出す。
学校へ来ないミカを心配し家に行き、庸平が刺され、そして早苗が死んだ。
風の音。
雨水の滴る音。
床が軋む音。
野良猫の声。
そして誰かが階段を上る足音……。
そんな、いつもは気にもとめない様々な音が、今日に限っては何か別の物のように感じてしまう。
寒気がしてベッドに入った香織は、布団を頭まで被り眠りに入ろうとした。
が
薄れゆく意識の中、
ズゥー……ズゥー……と何かを引きずる音に加え、
『ねえ。起きてよ』
という声を聞いた。
再び
『ねえ。起きてってば』
という声を聞いたとき、彼女は完全に目を覚まし、体を震わせていた。
『震えてるね?怖いの?』
『あきちゃん』が面白そうに言う。
『だったらさぁ、『あきちゃん』の事見てよ。多分もっと怖いよ』
そういって『あきちゃん』は布団を引き剥がす。
「いやぁ!!!!!」
叫んだ後、一瞬で血の気が引いた。取り調べの際髪の毛が伸びている、とミカから聞いていたが、今ここにいる人形の髪は2メートルはあるだろう。
その間から覗いた瞳がやけに生々しく血を滲ませている。
よじれた身体でフラフラと近づけて来る。
「いや……来ないで!いや……」
ひたすら首を振る香織。
『フフフ……』
笑いながら、庸平が愛用していた灰皿で香織の顔を潰していく。
「いやぁー!!!!!!」
泣き叫ぶ香織の声も、頭が割れ、脳みそが飛び出たと同時に途絶えた。
『ミカに近づかないでね?』
『あきちゃん』はそういって最後、顔面に赤黒く染まった灰皿をたたき付けた。
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