芹沢くん、こっちむいてホイ!

幼馴染、です?(1/30)









ーー

誰もいなくなったプールサイド。
まだ5月にプールなんかに
来る人がいるわけないし

ましてや、
今は球技大会の真っ最中。

こんな寂れた旧校舎
ちかくにあるプールになんか

近づく人がいるはずもない。



「あの……」




三人組がいなくなってから、
一言も声を発しない

全く微動だにしない

芹沢くんに不安になり、
声をかけた。

まだ
抱きしめられたままだと、
なんか足が地面についている
気がしないし。



「芹沢くん、あの…」


芹沢くんの胸のあたりを
両手で軽く押して
見上げる



『……………あ』



声をかけると
驚いたようにわたしを
見下ろした。

芹沢くんはわたしをみて
目を見開くと、



一瞬にして顔を歪めた。







『うわぁ……やば』







「……へ?」







『やばい、、




まじで。





心臓止まるかと思った……』




「は?」



芹沢くんは
そのままへなへなと
その場にしゃがみこむ。




「え?ちょ、…芹沢くん!?」




わたしも
慌てて座って
芹沢くんと目線を合わせた。


芹沢くんは頭を足の間にいれて
はぁ。と深く息を吐く。







『…あんたが、


プールに落ちるかと思った』



そういうと

また深々とため息をついた。




「……だよね、わたしも思った」




さすがに、今回は
溺死覚悟するレベルだったわ。




『はぁ!?

だよね、

じゃねーよ。
マジで焦ったじゃんか。

あとすこしでプールに
突き落とされそうな
あんた見て、嫌な汗かいた』



「…ごめんなさい」





初めてだ。





こんな芹沢くんは
初めてだ。

感情を表に表すのを
みるのも、

こんなに驚いているとも













「芹沢くんも、

焦ったりするんだね」









『はぁ!?』











「いや、なんか意外だったから。」



さっきも、三年生の人と
話しているときは
いつもと同じ無表情に
見えたから


わたしがプールに落ちそうに
なって、ものすごく
焦っていたようには
見えなかったから







「そっちのほうがビックリかも」





芹沢くんは
わたしを見ると今度は
眉間に皺を寄せた。


こういう顔も初めて見た。





「芹沢くんも
普通の人間なんだねぇ。


なんか嬉しい。」





色んな芹沢くんが
見られるのは
とても嬉しい。










『……あんまり言いたくないけど、



やっぱり、プールに沈んで


頭冷やそうか』



芹沢くんの右手が
わたしの腕を掴み、
プールの方へ押される



「うわっ、ごめん!ごめんって!」



『あんた、今どういう状況か
考えてみろよ。


よくヘラヘラ笑ってられんな。



そんな濡れて

ちょんまげの幼馴染に
何て言うんだよ?


お前のせいだって
言えんの?


言えないなら、俺が
言ってやろうか。』












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