世界が愛に染まる時
3章…[自動制御](1/32)
こんなにぐっすり眠れたのはいつ以来だろう。
夜中に目も覚めず、夢だって見なかった。
色々あって疲れていたから?
ううん
先生の匂いに包まれていると
すごく落ち着いたから。
憎くはあっても
好意なんて持つはずがないのに。
私は先生のことを
ただ嫌いだとは思えなくなっていた。
ゆっくり目を開けると、昨夜からカーテンが引かれていなかった窓から、太陽が顔を覗かせていた。
「…まぶし…」
ダルい身体を起こしてふと後ろを向くと、もう先生はそこにはいなかった。
ベッドから立ち上がって寝室のドアを開けると、先生の声が聞こえた。
ソファーに座り、誰かと電話しているようだった。
「ああ。そうか。そのまま捕まえておけ。逃がすなよ。多少手荒にしても構わん」
…また…何か揉め事だ。
先生はそれきり何も言わずに携帯を耳から離し、パタンと閉じた。
「先生」
物があまり置かれていないこの部屋で、私の声は響いた。
先生はゆっくり振り向き、何も言わずに立ち上がった。
一歩二歩と、ゆっくり私に近付いてくる。
「眠れたか」
「…はい」
「そうか」
私の前で立ち止まった先生は、親指で私の下まぶたをなぞった。
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