性格悪い系彼氏
生田の嗅覚 (1/6)
◆◆◆
「まっちゃん、再来週の土日ってやっぱ入れないんだよね?」
文化祭が終わって二日後、夕方のバイトが始まる10分前に事務所に入るとデスクに座ってるおっさん店長に早速そんなこと訊かれた。
「……え、いや、っていうかここちょっとタバコ臭いんですけど。まさか吸ってたんですか」
「違う違う。ここで吸ったら火災報知器作動しちゃうって。さっき外の灰皿の水替える時、制服に吸殻ぶちまけちゃったんだよ」
だから今水洗いして乾かし中、と事務所の小さい窓のところに干してある制服を指差した店長。あ、なるほどね。
私タバコの匂いとか、親がヘビースモーカーだからそんな苦手ではないけど敏感なんだよね。特にマルボロのメンソール系。
「ってそんな話より、再来週の土日駄目なんだよね?」
「えーと、なんでですか」
「なんでって、どっちもバツになってるから」
ほら、と9月期のシフト希望書を見せてきた。
私もそれを見てみると、確かに私の欄の9月最終週の土日には大きくボールペンでバツが書かれていた。
「……あれ、私バツ書いたっけ」
「え?先月に9月のシフトカレンダー貼った次の日にはバツ付いてたよ」
「へ?」
「その土日高校生は文化祭とかでほとんどみんなバツだから、困ったなーって思ってたんだよね」
シフトが作りたくても作れないよ、とため息混じりに言った。
そんな2週間以上も前にバツなんてつけてたっけ。
誰かと遊ぶ約束とかして前もってつけてたのかな。全然覚えてない。
あー、でも、なんか好きなタレントが出るテレビがあったから休みにしといたような……そうでもないような。
「すみません、なんか予定あった気が……」
「あ、謝らなくていいよ。まっちゃんにはいつも無理してもらってるし、ただもし入れるようだったら直前にでもいいから言ってほしいなーなんて」
「……はい」
店長がめっちゃ期待した目で私を見ながら言った。この人は私が押しに弱いことを知ってるから厄介である。
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