性格悪い系彼氏
バイトの後輩 (1/13)
◆◆◆
「うっわ、お前汗くせー」
夏休みも終わりかけの8月下旬。今日は夕方バイトで、17時5分前に事務所に入るなりすぐに何故か居た生田さんにそう言われた。
「……なんでいるんですか、生田さん。今日休みでしょ」
「シフト見にさっき来たんだよ。つーかくせーよ近寄んな」
「……」
鼻摘まんで顔歪めながら言う生田さん。相変わらずの最低さで何より。
というか制汗剤しっかり使ってんのにそんなこと言われちゃお手上げだ。生田さんの嗅覚の良さには諦めるしかない。
「キモくて臭くて肌汚いとか、お前ほんと女として終わってんな」
「……生田さんは彼氏として終わってますよね」
「はあ?お前みたいなカス女と付き合ってやってるヤツにそういうこと言うのか」
「……」
この安定した性格の悪さに慣れつつある自分が怖い。
寧ろ今日はマシな方だからラッキーなんて思った後にすぐ虚しい気分に襲われた。
あーあ。付き合う前は優しかったのにね。今は亡き優しい生田さんが恋しいよほんと。
いや、私以外には生田さん優しいから亡くなってはいないんだけども。
最近優しいバージョンの生田さんと楽しそうに会話してる後輩バイトの橋下くんに凄まじく嫉妬してる自分がいる。なんかもう橋下くんになりたい。
「あー、お前と会話してると本当に不快だ。帰るわ」
そう言い捨てて生田さんは事務所から出ていった。普通に「帰る」だけでいいのになんでそう余計な言葉を付け足すのかなこのやろう。
まあ、いつものことだからもういいやと諦めながら事務所の端にある小さいロッカー室の扉を開いた。
そしたらそこに何故か居た橋下くん。
「うわ!え?なんでそこにいるの」
「あ、えっと、盗み聞きとかそういうんじゃなくて!生田さんが来た時にはここ入ってて、出て挨拶しようとしたらすぐに松浦先輩が来て……」
「……」
「すみません、聞くつもりなかったんですけど……出れる感じじゃなかったので」
橋下くんは気不味そうに俯いてそう話した。
さっきの生田さんとの会話丸聞こえだったということか。
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