ブルーフィッシュ

005(2/16)






現代文の授業は、先生の話し方がゆっくりで声量が抑えめなこともあり、普段ならウトウトしてしまうことも多いのだが、久々の学校の授業。それだけでなぜか目は冴えていていつもより丁寧にノートを取ろうという気になった。

あと、
夏休みに入るまでは、 わたしの中で山内くんはクラスメイトの一人で、前の席だからって特に何も感じなかったのだけれど、今になって改めてこうして前の席に山内くんがいる、というのがなんだかとっても不思議な感覚だった。

山内くんの後ろ姿ってこういう感じなんだ。
授業中はこんな姿勢なんだ。

今まで後ろの席にいたのに、初めての感覚。
意識するだけでこんなに変わるんだ。







「持月あんたはやっぱり心の友だよ。ベストフレンドだよ、ズッ友だよ」

昼休み、お弁当も財布もない松永に、五百円を貸してあげた。それで売店でパンとジュースを買い、松永の空腹はわたしの手によって満たされた。

「しかし暑いね。アイスの自販が修理中なのが今世紀最大に許せないわ」

「アイス2つ一気に食べて午後の授業ずっとトイレにこもってた人がいたからじゃない?」

「ねえそれ忘れて」

松永の伝説は数多い。


「てかさ、夏目くんと喋った?」

松永が急に話題を変えた。

「え、うん。朝に」

「朝だけ?前まで休み時間とかちょこちょこ喋ってなかった?」


そういえば

夏目くん最初の休み時間もプリント書いてて、それが終わったら、席を離れて渡辺くん達と喋ってて。
午前を振り返ってみると、確かに朝以外喋っていない。だけれど、

「でも別にそういう日もあったよ」

「うーんそんなもんなのか。私気にしすぎなだけかな?」

「そうだよ、てかそんなにわたしのこと見てるの?見ないでくれる?」

「冷たいねズッ友に向かって」


今も夏目くんは教室にいなく、渡辺くん達もいなかった。どこか違う所でお昼食べてるのかな。前までは教室で食べてたけれど。

山内くんは教室にいた。前の方の席で3人で食べていた。山内くんが後ろを向きながらパンを食べていたので、わたしが見ていたのに気付いたのか、目が合った。
わたしは目が合うと思っていなくて、慌てて目を逸らした。
視線ってやっぱりわかるものなんだな。


「山内くんのこと好きになりそう」



松永が言った。


「持月」




持っていた箸が手から離れた。
箸が地面に落ちる音とわたしの驚きの声が出たのはほぼ同時だった。

「いや、何、わたしが?」

動揺しているのが自分でもわかった。
床に落ちてる箸を拾いながら、お弁当食べ終わってて良かった、となぜかそこだけは冷静に思えた。

「うん。時間の問題だと私は思う。だって夏休みでめっちゃ距離縮まったじゃん」

松永はいつもより声のボリュームを落として言った。

「まあ。」

「彼女がいて気分屋な夏目くんなんかより、良い関係築けそうだけどね」



松永は、わたしのことがよく分かる。


今、松永に言われたことは、確かに図星だったのかもしれない。
だからあんなに動揺したのかもしれない。



だってこの夏休みの期間、一番たくさんわたしの脳裏にいたのは、山内くん。

お風呂に浸かっている時、お布団に入って目を瞑る時、一番よく考えたのは、山内くんのこと。

夏目くんよりも。
山内くんのことを考えていた。

でもそれは、夏休み中よく電話して、遊んで。
関わる時間がたくさんあったから。

夏目くんとは、カラオケの日以来、会うこともなかったし、電話やメールをすることさえなかった。

だから、よく関わる山内くんのこと考えるのは、普通じゃない?



わかんない。 もう。
頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。







いつのまにか一緒にお昼を食べていた松永は目の前にいなくて、ガヤガヤとみんな自分の席に戻っていく光景が目に入った。

ああチャイム鳴ったんだ、と察する。
音は全く聞こえなかったけれど。

わたしは机の上のお弁当を片付ける。
先程落とした箸はずっと手に持ったままだった。

「さっき、」

前から声がした。柔らかい低音だった。


「目逸らした。」


顔上げる前から声でわかった。

なんで、こういう時に顔を見て話すんだろう。
いつも伏し目がちで、目が合うことは少ないのに。


「あれって、どういうのが正解かな。」

「僕ならウインク。」

「絶対しないじゃん」


予想外の返答に笑ってしまった。



ああ、もう、








すきに、なりそう




- 79 -


/112 n


⇒作品?レビュー
⇒モバスペ?Book?