ブルーフィッシュ
*004(27/27)
「…トイレ」
山内くんはそう言って、わたしと目を合わせずに部屋を出て行った。
これは、気のせいだったのか。
多分気のせいじゃないと思うんだけれど、今山内くんの耳すごく赤かった。真っ赤だった。
正直言うと、すごくびっくりした。
びっくりした、のが一番。
まさか、あの話の流れで、一昨日の電話の褒めて発言になるだなんて。誰が予想できるのか。
しかも、わたしの顔めっちゃ熱いし、心臓もめっちゃバクバクしてるし。山内くんに顔見られなくてよかった。
顔見られながら言われたら、どうなってたかな。
ちょっと、やばかったかもしれない。
がちゃ、とドアが開く。
山内くんが戻ってきたようだ。
「暑。ここ暑くない 」
「え、うん。暑いよね夏だから」
夏だからって絶対いらない一言。
山内くんがさっきと同じようにわたしの隣に座る。ちらっと隣を見たら、山内くんと目が合ってしまった。
「あ 」
わたしの声。
「お前顔あか。」
と山内くん。
「え?いや、暑いし!てゆうか急に褒められたらそりゃこんな赤くなるよ…」
「お前が褒めろって言うから」
山内くんが笑った。
はは、と声を出して目を細めて。
ああ、なんか。
またきゅんってなった。
別に山内くんは全く笑わない訳ではない。
笑った所を初めて見た訳でもない。
だけど、
何故か、わたしすごく
どきどきした。
「あ、宿題」
焦った。危ない。
この雰囲気耐えられない。
今の笑顔にどきどきしてること、恥ずかしくてバレたくなくて、このままこういう話してたら、本当にやばくなってしまいそうで、
「宿題やろうよ、わたしまた現代文もなぜかたくさん進めて、あと残り少しなんだ」
「何その急なやる気。」
「いやだって宿題もやらないとね。夏休みで勉強に差がつくってよく言うし」
「受験生か。」
山内くんの珍しいツッコミをスルーしつつ、どきどきした心臓を抑えようと軽く深呼吸しながら、バックから勉強道具を取り出す。
「はーまじで宿題タイムか。」
山内くんぼそっと小さい声で言うけれど、聞こえてるからね。
それから、わたし達は本当に宿題タイムに入った。
さっきみたいな雰囲気にならないよう細心の注意を払って。
最初は集中力のない山内くんだったけれど、わたしが真面目に現代文に取り掛かっていると、山内くんも何とか利き手の左手でシャーペンを持ち、止まらずに手を動かしていた。手元をちらっと覗くと、わたしの日本史の解答をそのまま自分の回答欄に写していた。
いや、いいけど。
いいけど、少しは変えないかな。
せめて記述問題はちょっと変えてくれないかな。
「山内くん前回のテスト何位だった?」
「クラスは31」
今のそのまま丸写し行為が気になり、興味本位で聞いてみた。ちなみにクラスの人数は40人。
「あんまり良くないね」
「お前は 」
「18だった」
ちなみに17位は夏目くんだった。
「微妙」
「31位に言われたくないよね」
山内くんとそういう雑談をしながら、宿題を進めた。途中休憩を何回か挟めながら。時間は案外早いものだった。
あっという間に時間は過ぎて、ふと気付くと時計は18時10分を指していた。お母さんにご飯までには帰ると伝えてきたし、山内くんのお家のこともあるし。わたしはそろそろ帰ろうかな、と言ったら、山内くんは、ん。送ると言った。
部屋を出て階段を降り玄関に向かう。
どうやらリビングと思われる扉は暗く、まだご両親は帰ってきていないと思われる。
玄関に辿り着き、今日はありがとうと言おうと思ったら、山内くんが玄関を開けてくれて、行こ。と声をかけてくれた。
あ、送るって玄関までじゃなくて、わたしの家?
「いやすぐ近くだし一人で帰れるよ」と言うと、「送りたいから」と山内くんは言うので、そんなに断るのも変かなと思い、一緒にわたしの家まで歩くことにした。
山内くんとわたしの家は本当に近く、歩いて10分もかからない距離にあるので、話しながら歩いていたらすぐに家に着いてしまった。
わたしはさっき言い逃した、今日はありがとうの言葉を伝えた。山内くんは、ん。じゃあまた、と言い、それから、あ。と小さく呟いた。
「また間違えて電話して。」
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