ブルーフィッシュ
*004(1/27)
「私さ、思ったんだけど、夏休みとかの宿題ちゃんと出したことないんだよね」
「さすがだね松永」
「毎回先生に怒られて居残りさせられるの」
「確かにいつもそうだよね」
「だって家が悪いのよ 勉強をするように出来てないの私の部屋は。勉強机もないし、教科書もぜんぶ学校だし」
「いつも思うけど、よくこの高校入れたよね」
「自分でも不思議だわ たぶん本番に強いタイプなんだよね」
夏休みまであと3日をきったこの教室は、よくあるだるだるモード。
キティちゃんの扇風機を回しながら といっても、この炎天下の中、松永とぐだぐだ雑談をするのは、決して涼しいものではない。
おまけに後ろの席の夏目くんときたら、なにを血迷ったのか、缶に入った湯気がほこほこ出ているおしるこを飲みながらiPhoneをいじいじ。
見ているだけで暑苦しい
「ねえ夏目くん 暑いからおしるこ飲まないでくれる?」
なんとも理不尽なことを言うこのばかは、もちろん松永。
「なんかさ、おれいまもう暑い通り越して逆に寒いんだよ 」
「熱でもあるんじゃない」
「そうじゃなくて、体と頭がなんとかして暑さに対抗しようとした結果、おしるこなわけ」
この暑さのせいで夏目くんもなに言ってるのかよくわからないし、前の席の山内くんは机に伏せて、寝息を立てているし。
この暑い中よく寝られるなあ…
「結局あんた祭り行く人決まったの?」
松永は頬杖をつきながら、とても暑そうにわたしに問いかける。
この質問は、わたしに対しての嫌味なのか。
松永は由利くんと行くことが決定しているから、相手がいないわたしに対しての嫌味なのか、心配なのか。
後者はぜったいにありえない。まあきっと単なる素朴な疑問なんだろうけれど。
「まあ…」
わたしの脳内に山内くんがよぎる。
一応誘われた というか、約束したし、一緒に行く相手は決まっていることになる…よね
「あ そなの?青木?佐藤?」
意外そうな松永のリアクションからすると、わたしがまだ誰とも約束をしていないと思っていたんだろう
「いや、青木でも佐藤でもない…」
「え?じゃあだれ?あんた他に仲良い人いた?」
非常に失礼なやつだ
「…っ、まさか…持月…」
あれ 気付かれたのかな
「お母さんと一緒に行こうとでも思ってるの?!高校生にもなって?!」
「わたしそんなに友達いない風に見えるの」
「見えるっていうか、そうじゃん」
正論だから何も言い返せないのが悔しい。
でもわたしはお母さんと一緒にお祭り行くことに抵抗はないけれど、今時の女子高生からしては、アウトってことか
「まじで誰と行くのよ 私に言えない人なの」
なぜだかはわからないけれど、わたしは山内くんの名を口にするのをためらった。
しかもこの教室の配置。
わたしの前の席に山内くん、後ろの席に夏目くん
山内くん本人がいる前で話をするのは、なんだか気恥ずかしいし、本人は寝ているんだけれども。
夏目くんはべつに聞かれて困るというわけではない けれど、いやだな。勘違いされるの。
なんて、
わたし せっかく誘ってくれた山内くんに失礼すぎる
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