猫と夜

 昼の夜と猫 1/9







―ピピッ、ピピッ、ピピッ

小窓からビルの合間を縫ってきた陽射しが降り注ぐ部屋。

鳥の囀りの代わりに携帯のアラームが小さく鳴り続ける。

「んー……」

しかし元来寝起きの悪い俺がそんなもので起きる訳もなく。
知らない内の止まった音にまた心地好く眠りに就いたのも、束の間。



ガタンッ――


「っ、いってェ!なに!?」

突然身体を襲った衝撃。
飛び起きて視界に入ってきたのは見慣れない景色。

軽くパニック。

「……何してんの、朝だよ」

そんな中、頭上から降ってきた声に顔を上げると――

「柚……、ああ、店か」

ベッドから俺を覗き込む姿で昨日を思い出し、一拍置いて安堵の息を洩らす。
どうやらベッドから落ちたらしく、打った腕を擦りながら立ち上がると柚はきっちりと制服を纏っていた。

付けたままだった腕時計に目を向けて時間を確かめると7時半。

「うっわ、はや。学生って大変だな」
「ここから電車で1時間は掛かるし。だから車で送ってよ」

出た、安奈親子の無茶ぶり。

「こんな街に車で乗り付けねェよ。車は家だから無理」
「でもあの人に麗緒の家は店からタクシーで15分って聞いた」

あの人、って安奈さんか。
余計なことを……
気だるい身体でベッドに腰掛けるとぷらぷらと手を振って断る。

「嫌だって面倒臭い」
「警さ……」
「ああもう!わかった!」

しかしやはり拒否することは日常との別れを示していて。
俺は投げ遣りに答えると携帯とジャケット、ネクタイをひっつかんで立ち上がった。
鞄を手にする柚が後ろから付いて来るのを確認すると、裏口から表に出る。

「眩し……」

朝日の眩しさに目を細めながら大きな通りまで歩いてタクシーを止め、さっさと乗り込んで行き先を告げると床に打ち付けた腕を押さえた。

「俺、寝起き悪いけど寝相悪かったっけ?」

普段誰と寝るにしてもダブルベッドだったからシングルに二人じゃ寝相の悪さが現れたのかもしれない。
寝相の悪い自分を想像して溜め息を洩らす。

「いや、あたしが落としたから」
「通りで。……って、おかしいだろ!!」

いけしゃあしゃあと言いのける女に思わず拳を作って声を荒げる。
そんな俺を柚は顔を顰めて一瞥した。

「うるさい」

……。
あの、さ。ベッドから落とされて怒るのは当然じゃねえの、コレ。

二人の間の温度差に握った拳の力も緩んで座席に凭れかかりズルズルと身体を沈める。

「他に起こし方無かったわけ」
「声掛けても起きないから」

あたかも俺が悪いかのように言われて更に脱力感。

返す言葉も無くて、マンションに着くまで無言で景色を眺めた。







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