猫と夜
猫の行方を 1/7
「麗緒はホント可愛いよねー」
「えー?照れるじゃん」
「そんなとこも可愛いー!」
酒と女で溢れる世界。
いつものように笑顔を振りまく。
「たれ目も、薄い唇も可愛い。ミルクティみたいな髪の色も好きよ。女の子より可愛いんじゃない?」
酒に酔った赤い顔で俺の顔を突き回す。
そんな女の茶色い髪を一房手にして唇を寄せた。
「遥さんには負けるよ。……でも遥さんは可愛いっていうより綺麗かなァ」
「もー!上手いんだからー!」
そうやって今日も夜が更けていく。
はずだったのに。
奥から走ってきたボーイが耳打ちした言葉に、額に青筋が浮かぶ。
「遥さん、ごめん。席外すね」
「え、なんで?やだー」
お客の前だ、と自分に言い聞かせて何とか穏やかな表情で切り抜ける。
「ごめんね、ごめん」
その足で、急いであの空き部屋に向かって扉を開いた。
「あンのくそガキィィ!!」
中はもぬけの殻で、テレビの音だけが虚しく響く。
「しまった、あいつの携帯知らねェわ。ったく!」
「麗緒さん、どうしますか?」
「オーナーの娘だぞ、探してくる」
困ったように問うボーイに投げ遣りに答えると、裏口から外に飛び出した。
後ろから制止する声が聞こえたけれど知ったこっちゃない。
元はと言えば元凶はオーナーである安奈なわけで、全ての責任は擦り付けてやるつもりで店を放棄。
しかし飛び出した所で行く先が分かる訳でもなく。
直ぐに路肩に座り込む事になる。
「マジ無理、ありえねー……」
煙草を取り出して一服する。
吐き出した煙が登っていく先を眺めながら溜め息。
「あー、どっから探すかな」
前髪をぐしゃりと上げてくわえ煙草のまま立ち上がった。
辺りを見回しても制服の女なんて気持ち悪いオヤジの隣を歩いてる奴だけ。
……、だけ?
「、いた!」
くわえた煙草を投げ捨てて反対側の歩道に飛び出す。
気持ち悪いハゲ散らかしたオヤジの前まで行って立ちふさがるように止まるとオヤジは焦ったように顔を上げた。
「な、何だ!邪魔だよ、君!」
隣に立つ柚は俺の顔を見るなり視線を逸らして目を伏せる。
「邪魔なのアンタだから。それ、俺の連れなんだけど」
頭一個分小さいオヤジを睨むように見下ろせば、竦む首。
柚の肩を掴んで胸元に抱き寄せると眉間の皺を更に深く刻んだ。
「援交か、オッサン。寂しいのはその風体見りゃ分かるけどやっていいこと悪いことがあんだろ、この変態が!」
怒鳴るように凄めば脂汗を浮かべたオヤジは慌てて背中を見せ立ち去る。
格好悪いその背中を見届けて胸元の柚へ視線を変えると腕を掴んでそのまま店へと引っ張った。
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