サヨナラを言った日。
サヨナラを言った日。 (1/12)
きーんこーんかーんこーん。
もう聞き慣れたチャイム。
三年間 毎日のように聞いていれば、そりゃ慣れるよね。
「きりーつ、
れーい、ちゃくせーき」
どこかダルそうな学級委員の女の子の挨拶ですら満足そうな中年教師は聞き終えたと同時に教室を出て行った。
これが最後の授業。
高校三年生。
私達は来週……卒業する。
寂しくはない。
ただ、
心の中の大事な部分が
ぽろっと抜ける気分。
それなりに楽しかったよ。
友達もたくさん出来た。
恋もした。
バイトもした。
精一杯 青春をした。
女子高生は意外と楽しかった。
でも、来週で終わりなんだ。
高校を卒業したら、
私は上京して東京にある大学に通うことになった。
本当はちゃんと夢があって、地元の大学に通って、地元の大学を卒業して、地元の中小企業に就職をして、大好きな彼と結婚をして、子供を産んで、ママになって……それからひっそりと生きて行くはずだったのに……。
ガラガラと音を立てて開いた扉。
「じゃ、HR始めるから席つけー。」
ずかずかと我が物顔で少し偉そうに入ってきた男。
高い身長に、
ワックスで無造作にまとめられた黒髪と金属フレームの眼鏡が良く似合う知的な顔立ちをした私達の担任。
……こいつに、
その夢を邪魔された。
お前は、英語が得意なんだから。とか、ここじゃ限界がある。とか。
ねぇ、違うでしょ?
私達 恋人でしょ?
引き止めるんじゃないの?
あなたとここで、
結婚したかったのに。
夢だったのに。
教室の窓から見る景色は、
いつもと同じなはずなのに。
ぼやけて、霞んで見える。
胸がズキズキする。
痛いよ。
「馬鹿らしい。」
HRが始まったクラスの声を、私はどこか遠くで聞きながら耳を塞ぎ込みながら寝ていた。
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