【さつきとじん】
[第6話『哀悼の意を捧げます』](1/12)


僕は綾瀬にメールしてみたが、久遠寺が言ったように返事は来なかった。

一時限、二時限、三時限と時間が過ぎていっても返事は無い。
ただたんたんと無駄に時が流れていく。

いっそ僕も教室を出て学校をサボり綾瀬を探しに行こうかとも思ったけれど、綾瀬が家にいるとは限らないし、僕と会ってくれるかも解らない。
僕にはこうして勉強をしていることしか出来なかった。

久遠寺は飄々としながらも僕を気遣ってくれている。
益田達は尚もしつこく才能について聞いてきたが、答えは一つしかないから無意味な平行線を辿った。

時は刻々と過ぎていく。
でも、僕の周囲の時間は恐ろしく鈍くて停滞しているみたいだ。

「いよいよ6限を残すばかりだ。
楽しみで仕方ないだろう?」
「楽しみとは違うよ。
ただ心配なんだ」

「ふむ、見えない尻尾を激しく振っているように見えるが?」
「見えないものは無いんだよ」

久遠寺お得意の犬ネタを軽く流し、僕は黒板右に書かれた時間割を見つめた。
本日10月4日水曜日の6限の授業は現代文だ。

そう、我らが担任後藤田先生の担当教科である。

- 35 -
前n[*][#]次n
―栞
/620 page 


⇒作品レビュー
⇒モバスペBook


>>戻る