サトシノっ。

 『兄』から 1/6 

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もう、涙は出ないだろうって
思えるほど泣いた。

「紫乃、あなた大丈夫?」

「ごめんなさい」

声もガラガラ。
頭が痛い。

いつの間にか寝てしまっていて
次の日に起きたら酷い状態で。



「いいから寝てなさい」

「はい……」

「でも本当にいいの?
一人で大丈夫だなんて」

「うん……仕事、行って」

ガラガラの声でそう告げると
母さんは部屋を出ていった。



最近、体調が良くないことが
続く僕に、まるで昔の様だと
言われた。

そういえば昔はよく
熱を出して学校を休んだ。

それもあって、友達が上手く
作れずにいたんだ。



「ケホッ……ケホッ…」

喉が痛い。
ガラガラでカラカラだ。

喉もだけど心もカラカラ。

カサカサしてるかも。

枕元のドリンクを飲んでも
潤ってる気がしない。



「ふぇ……」

一人になったら余計に
サト兄のことを思ってしまう。

どれだけ好きなんだろう。
自分で呆れてしまう。

それくらい……好き…



あの腕。
優しい声。

いつも導いてくれる人。

思い出す。

あの指先も、耳元で聞こえる
掠れた声だって鮮明に。

当たり前だ。
あんなに何回も僕は……

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