月に願いを
[壬生の狼たち](1/28)










雪奈は両手いっぱいの荷物を抱えながら、土方の少し後ろを歩いていた。
その背中を見失わないように気に留めながらも、すれ違う人々や街並みを横目で観察した。

(やばい…。すごい緊張する。こんな風景、テレビの時代劇でしか見たことないし。しかも、島原の街からは出たことがなかったからなぁ…)

「おい。…あんまりキョロキョロするなよ。」

少し前を歩く土方がこちらをチラリと見た。
その言葉に雪奈はハッと背筋を伸ばした。

(やだ、私また顔に出てかな…)

「ほら、よこせ。」

「えっ、ちょっ…!」

抱えた荷物を奪われるようにして、取り上げられる。

「屯所はまだ先だ。歩きにくいんだろ?」

「え、そんな、大丈夫です!自分の荷物くらい持ちます!」

そう言って、土方が取り上げた風呂敷を取り返そうと手を伸ばす。

「馬鹿野郎。足痛めて歩けなくなっても知らねぇぞ。荷物くらいなら持ってやるが、お前を抱えるのは御免だ。大人しく言うことを聞いとけ。」

雪奈のおでこを土方の指が突く。
その行為に雪奈はほっぺたを膨らまし土方をじっと見つめた。

(優しいんだかいじわるなんだかどっちかにしてよねっ!)

「なんか文句あるか?」

土方は眉をピクリと動かし、じっと見つめる雪奈に向き直った。

「いいえ!」

その一言を言うと、雪奈は軽くなった両手を大きく振りながら歩き出す。

「おい。道わかるのか?」

「…!」

雪奈はピタリと足を止めて土方を見た。
後ろから声をかけた土方は笑っている。

「わ、笑わないで下さい!」

「ふふ、笑うだろ。道がわからねぇのに、先に行くなよ。」

「だって、土方さんがいじわるな事するからっ!」

「はぁ?今更か?」

少し恥ずかしくて下を向いている雪奈。土方は近づき、雪奈の髪にその唇が触れる距離で立ち止まった。

「あの晩一緒にいて、俺がいじわるなのは知ってるだろ?」

「はっ…!」

雪奈はその囁きに頬を染めて、顔を上げた。
見ればそこにはいたずらに微笑む土方の姿。

(か、か確信犯!?)

「ほら、いくぞぉー」

雪奈の荷物を抱えながら土方は歩みはじめる。

「ちょっと!待ってください!」

後を追う雪奈は、先ほどまで感じていた緊張感を忘れていた。





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