傷つきたがりピエロ
[親愛なるピエロ](1/17)

親愛なるピエロ



「悪かったな、勝手な事して」


待ち合わせ場所に向かう車の中で、アキは本気で申し訳なさそうにしていた。その割にはやる事が大胆だ。この令和の時代に果たし状とは。


「怒ってるのか」


「怒ってませんよ。そりゃ驚きはしましたけどね。まさか新太くんのバイクに貼り付けておくなんて」


「だって他にあいつとの連絡手段なかったろ。大学もバイト先も知らないし、ちょっと見たとこSNSもやってないみたいだし」


確かにSNSは、宮坂対策のために全て消した後だった。


「だからってタイトルを果たし状にしなくても」


「先にケンカ売って来たのはあっちだからな。あれだけ偉そうに玲奈を幸せにする!とか抜かしといて、1年経ってもこのざまだ」


アキは眉間にしわを寄せた。


「大体、人の事を散々浮気性だの言っておいて自分はどうなんだよ。結局はルームシェアしてた女と雨宮を二股かけてたんだろ。その女とだめになって実家に戻ったからって、今度は雨宮とか、勝手過ぎる」


そ、うですかね」


これには曖昧な相槌しか打ちようがなかった。あまりにも誤解があり過ぎて、どこを訂正したら丸く収まるのか分からない。


「だからあれは果たし状でいいんだよ」


「第一発見者はお母さんだったみたいですがね


アキは、えっと目を見開いた。何だその予想もしてませんでした、みたいな顔。実家の駐輪場なんだから当然じゃないか。


カフェの駐車場でさえ、誰に読まれてもいいように気をつけて書いた新太くんとは大違いだ。物事にも人間に対しても、裏の裏を考えたりしない。


でも私はその真っ直ぐさがとても好きだ。


「私を通じて呼び出そうとは思わなかったんですか?」


「何であんたとあいつを会わせるような真似、わざわざしなきゃならないんだよ」


唇を尖らせるから、笑ってしまった。



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