傷つきたがりピエロ
[抱き締めたいピエロ](1/18)

抱き締めたいピエロ



映画館から出ると、外は冷たい風が強く吹いていた。上着、持って来れば良かったと思わず身を縮こませる。


「急に冷え込むな。昼間は暑かったのに」


アキも大きな身体を身震いさせた。


嵐のように駆け抜けた夏が終わり、10月に入った。受験生の私と大学祭の作品準備で忙しいアキだけど、こうして週に一度は会っている。


今日は軽くお茶を飲んで映画を観た。交際は順調だと言っていいと思う。


「こんなに昼と夜の気温が違うと着る物が分からないですよね」


「雨宮、寒いから中で待ってな」


アキが映画館の扉の方へ私を促した。


「オレ、車ここへ回してくるから。確かトランクにパーカーもあったはず」


言いながら走り去ろうとするのを、慌てて追い掛けた。


「待って、一緒に行きます」


「でもその格好じゃ寒いだろ。いいから待ってろ」


薄手のノースリーブの私を気にかけてくれるけど、お互いに忙しいから一緒に過ごせる時間は限られている。ちょっとでも長く近くにいたいんだ。


「やだ。大丈夫です、一緒に行きたい」


「しょうがねえな。風邪ひいても知らねえぞ」


ほら、とアキは私と手をつないだ。こういうわがままが自然に言えて、こういう触れ合いが自然にできるくらいには、私達は上手くいっている。



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