傷つきたがりピエロ
[薄紅い糸](1/28)
薄紅い糸
「玲奈に心配かけたくないから黙ってたんだけどさ…」
プレートの上のチキンサラダをほぼ食べ終えた新太くんは、気まずそうに切り出した。
近所のショッピングモール内のカフェ。カントリーcafeに行けなくなった私たちは、最近ではもっぱらここを利用している。長居しても店員さんの目は厳しくなくて、味もほどほどだからだ。
でも時たま、無性にカントリーのアボカドバーガーが恋しくなるのは新太くんには言えなかった。
「どうしたの?」
この前振りはきっと悪い話。
「…とうとう宮坂がルームシェア先に来た」
予想以上だった。興信所を使っているなら、新太くんが実家にいないことはいずれバレるとは覚悟していたが。
「いつ?」
「先週。ぼくはバイトで留守にしてて、マネージャーと女友達がアパートにいて…揉めたらしい」
マネージャーのヤツ、あの女の人と2人きりでアパートにいたのか。新太くんのいない時に…。
あの2人を初めて見かけた時から感じていた特別な空気は、勘違いじゃなかったようだ。新太くんをはじき出して彼らの距離はどんどん近づいている。
しかし今はそんなことを気にしてる場合じゃなかった。
「揉めたってどんな風に?」
「宮坂、女友達がぼくの新しい恋人だと勘違いしたみたいで絡んだらしいんだ。それでマネージャーがブチ切れちゃって…。あの人普段はすっごい穏やかなんだけどキレるとヤバいんだ」
そりゃそうだろう。キャバクラのマネージャーなんて裏稼業、カタギじゃ務まるはずがない。どこかまともじゃないに決まってる。
「それで宮坂は?」
「ビビって逃げたって。もともと気の小さい男だから」
確かに、私に絡んだ時もアキが出てきた途端逃げてしまった。ましてや今回はあのマネージャーだ。本人には申し訳ないが、ケロイドで覆われた眼で睨まれたら大抵の人間は震え上がるだろう。
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