傷つきたがりピエロ
[幼馴染みの恋](37/37)

その瞳があまりにも強くて、まるで何かに挑むような眼光に一瞬怯んだ。


優しくて大人な姿はいくらでも見てきたけれど、こんなお兄ちゃんは初めてだった。


まさか本気で?いや、だめだ。騙されちゃだめ。


『言われたんだよ、お前は女の子を知らないからこんな真似してるんだって。ちゃんと女の子と付き合ってみろ、それでも気持ちが変わらなかったら考えてみるって』


あの時の、新太くんの自虐的な表情が脳裏をよぎる。お兄ちゃんは彼の目を無理矢理女の子に向けて軌道修正させようとした。間違いを犯してもいないのに。


『お前はヤれたら誰でもいいのか、男でも女でも』


ついさっきも残酷な言葉で心をえぐったばかりだ。


当てになるもんか、こんなの。今までの罪滅ぼしか、義務か責任感かは知らないが、そんなものでは新太くんの傷を癒せはしない。


彼が欲しいものはもっと単純で、とても手に入れるのが難しいのだ。


お兄ちゃんは確かに優しい。でも優しいのと同じだけ弱いから、どうせまたすぐ新太くんから逃げ出すだろう。そして前以上に深い傷を増やす羽目になる。


「信じないよ私。お兄ちゃんには任せられない」


「だって辛いんだろう。お前はもう自由にしろよ」


あくまでも食い下がる。兄として、妹を楽にしてやろうという庇護のつもりか。


「そろそろ行く」


お兄ちゃんは会社の鞄を持つと帰り支度を始めた。吸い殻の入ったビニール袋をつかんだのを見て、


「お兄ちゃん」


賭けのような気持ちで声に出した。


「私、新太くんが好きだったんだよ」


その指が一瞬止まって、でもすぐに丁寧にビニール袋はしまわれた。


「そうか。過去形か」


ドクン、と心臓が鳴った。お兄ちゃんはそのままバイバイも言わずに出て行った。


どういう意味かは聞けなかった。兄妹なのに、兄妹だから、お互いにそれ以上は聞けなかった。
















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