傷つきたがりピエロ
[彼の古傷](1/17)
彼の古傷
「どうしたんだよ、その膝」
翌日の夕方、どかどかと自分のうちのように我が家のキッチンに入って来た新太くんは顔をしかめた。
「ちょっとあの後、公園でこけちゃったの」
膝の擦り傷は思ったより広範囲だった。最近では乾かすより湿らしておいた方がいいらしいので、ママにでっかいケガパワーパッドを貼られている。
「かなりひどくね?」
「大丈夫だよ、大げさに見えるだけ」
「いいから見せてみろって。なにそれ、ぶよぶよしてんじゃん」
ケガパワーパッドは傷から染み出した体液を吸って、ゲル状に白く膨らんでいた。
しつこく見たがる新太くんから逃げて、夕飯の支度に取り掛かる。ったく、汚いから見られたくないっていう女心が分からないんだから。
「今日はママが遅いからご飯作っておかなきゃならないの。この後バイトもあるし。私忙しいんだから、邪魔するなら帰って」
ちょっと強く言ってやると、新太くんは肩をすくめてダイニングの椅子にどかっと座った。
こうしてちょくちょくうちに寄ってくれることを、何よりも楽しみにしてるくせに、つい可愛くない口を聞いてしまった。
『可愛くねー』
あの絵描きのアキにもそう言われた。自分でも分かってる。でも可愛くってどうすればいいのよ。
「し、心配してくれてありがとう」
精一杯しおらしく言ってみた。別に、あいつに感化されたわけじゃないけど。
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