ほとんど病気 (短編集)
[自殺](1/6)
それはクリスマスの翌日。つまり12月26日の深夜の出来事だった。
深夜のドライブが趣味である田口は、この日も愛車のプリウスに乗って、お気に入りの場所に向かっていた。
「またか…」
田口は呆れたような表情を浮かべブレーキを踏んだ。
橋の欄干(手すり)の上に女が立っていたからだ。
田口がこういう光景に出くわしたのは初めてではなかった。10年の間に9回もあった。
場所はそれぞれ違ったが、この橋は3回目だった。
国道を見下ろすように架けられたこの橋は、車が豆粒のように見えるほどの高さがある。
落ちればもちろん即死。しかも車の往来が激しいため、遺体は瞬時にミンチになる。
確実に死にたい者にとっては絶好の場所だった。いわゆる自殺の名所という場所だ。
田口はこういう場所を巡るのが趣味だった。
理由はどうあれ、自らの手で自分の命を断つ、自殺という行為がどうしても田口は許せなかった。
ドアをゆっくりと開けて忍び足で女に近づく。
「悪いことは言わないから止めたほうがいい」
田口は刺激を与えないように淡々とした口調で静かに話しかけた。
女は無言で顔だけ振り向いた。一応メイクはしているようだが、かなり幼く見える。中学生、それとも高校生なのか、とにかく間違いなく未成年者だろう。
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