Episode.1(1/37)
毛先がゆるく巻かれた緋色の髪を耳にかけ、少女は手鏡を両手で持ち直す。
そうして再度、その鏡に映る自分の顔をまじまじと見直した。
薄く施した化粧のせいかいつもよりも白い肌、それにしては血色の良い艷やかな唇、二重の大きなグラスグリーンの瞳。
華やかなドレスがよく似合う美しく愛らしい少女の視線は、鏡の中の自分の顔、ではなくその瞳にあった。
鮮やかなグラスグリーンの中に浮かぶ白色の紋章。
この紋章は、国の中で魔力を持つ者の中でも特に優れた魔力を持つ者の、特定の年齢の誕生日にだけ現れる。
魔術師は左目に、呪術師は右目に現れる力の証。
彼女はそれをじいっとながめ、それから大きくため息をついてみせる。
「王女様、どうされました?」
ふいに声をかけたのは、彼女の傍らでその様子を見ていた彼女の執事だった。
スーツをピシリと着こなし、彼女の座るソファーの横に姿勢よく立ちながら、コテンと首だけを傾げる。
胸に当てた左手には、肩のほうまで続く包帯が巻かれている。
王女と呼ばれた彼女は、声をかけた執事のほうを見て、ブスッとした不機嫌な顔をする。
「こいつが気になってしかたねえんだよ。
せっかく仮病使おうと思ったのに、サラが『ロゼリア様はとてもお元気ですよ』なんて言っちまうからさ、今さら休めねーの」
王女らしからぬ言葉遣いに、年頃の女の子にしては低い声。
本日十六を迎える彼女の声は、まるで声変わりをする前の少年のような声だった。
いや、まるでというのは適切な表現ではない。
声変わりをする前の少年の声、そのものである。
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