決して批判でない批評
最初に、冒頭の書かれている視点に違和感を感じました。
出だしの一文から神埼狐月の視点での物語だと言明してから、直後に三人称で神様から見たような視点で書かれています。
神埼狐月の視点ならば「少女」と云う他人行儀な表現と、神埼狐月の見聞きして居ない人達の会話や行動の存在に違和感があります。
しかし「私達の過去の物語」となっている事から主人公は複数人居る事も推測出来ます。
せめて一つの章やページ内での視点は一つに決めると、読み手側の混乱は少なくなると思います。
私は冒頭の書き出しから一人称だと思って読み始めた為、物語が始まってすぐのp1内で主軸になるキャラクターが不明になり、この作品への印象が悪くなりました。

物語進行上の違和感で、私が最も強く感じた部分です。

月影のp5「愛人だった」p6「幸せな時間でした」の部分。描写の中にそれを裏付ける表現が無いのが残念です。
幸せだったなら、妖狐退治は月影と狼月の馴れ初めのエピソードで、思い出しただけでも嬉しかったり恥ずかしくなったり惚気てしまうような、月影にとっては懐かしい逸話では無いでしょうか。
月影が妖狐だから人間的な感情を持ち込むのは違うのかもしれませんが、月影と狼月が愛し合っていた事を前提にするとp29の最後の月影の驚きは、もっと大きな感情表現があるような気がしますし、狼月を倒す事に対しては狐月達と敵対するか迷うくらいの葛藤があってもおかしくなかったのではと思います。
狐月側から、生きていると知った狼月の元に走らない理由は何だったのでしょう?

p9で異世界に来てしまったと気付くまでの早さと、平行世界だと結論付ける早急さ。
全体的なストーリーの進み方でも感じていますが、何事も登場人物達はすんなり受け入れ過ぎて、足並みが揃って団体行動ができ過ぎでは。同じ目的で動いていれば足並みが揃うのはわかりますが、複数人居れば多少の行動・考え方・意見の違いが出てくるのでは無いでしょうか。
結論付ける時はそれに基づく判断材料がもう少し集まってからの方が納得できます。
ざっと間違い探しをして平行世界だと何故断言出来たのでしょう?
予備知識があったとも考えられますが、何処からどのくらいの時間をかけて、どれくらいぶりにたそがれ町に着いたのかによっては町の景色が変わる事がありますし、双方の日付けと時間が未確認なので実は平行世界ではなく過去や未来のたそがれ町に飛ばされたとも考えられたはずです。
超能力の件は不可思議な世界が日常なのかなとは思いますが、世界観の説明も殆ど無いので無理矢理な感じがしました。


p19の霊能者として支障をきたす狐月が何故正式に霊能者として跡を継げたのか、ここに疑問を感じます。
元々がどの程度の力の持ち主かと云うエピソードが無いので力量を推し量れませんが、平安時代(p25参照)から続く霊能力者の家系ですよね。
少なく見積もっても800年以上続く一族の歴史がありますし、そんな一族なら能力を後世に残す為に無能力者・低能力者を排除し、能力の高い者を後継者に選ぶのでは無いでしょうか?
長い歴史の中、お家を守る為に直系の子孫の能力が不十分なら分家から跡継ぎを迎えて来たのではと推測します。
能力的な支障が出るならばプロとしてもお仕事になりませんよね。
むしろ仕事の失敗で信用を落とし、一族の歴史の中に汚点を残すのではないでしょうか。
主人公が能力の一部を失ったと云う事は物語の中で主人公の人生が揺らぐような重大な事件だと思うんですよ。
オカルト同好会の存続は置いておいても、人ならざる存在とのコミュニケーションにも支障は出ませんか。
能力を取り戻す為の画策や、修行をして能力を高めるような努力が無く、当たり前のように跡継ぎとして認められた点に違和感が残ります。

p39の月影が青ざめる程に恐れる黒月。
月の一族の元祖と云う事でしたら、一族を束ねる長か、それ以上の存在だと云う事ですよね。
それにしては月影から黒月への気遣いや扱いが雑だと思います。
狐月へ黒月が子供の姿をしている説明をする前に、まずお客様への紹介が先では無いでしょうか。
ケーキを全て食べられてしまい腹を立てる狐月へにも、お客様へ対する無礼を窘めるべきではないかと思います。
p41での黒月に零二を紹介しないと云うのも、黒月には気に止める程の人物では無いと云う事かもしれませんが、この後に一緒に出かけるシーンで気まずくないのか疑問に思います。
理佳へは自己紹介をさせると云うのは、黒月に対して気遣いが出来ていなさ過ぎでは。
メニュー内容のわからない黒月に対してフォローも出来ていません。
一族の重要人物ならば知らないと思われる事に対し恥をかかないよう、素早く察して先手を打つくらいで良いと思います。

例えば漫画ならばセリフがあり、地の文に当たる表現描写の殆どを絵で表しています。
キツネスキーさんの書き方がそれに似ている印象で、都市伝説のナレーションとセリフがあり、絵で表現出来ない部分がアナウンスされる感じです。
漫画で云えば絵の部分を、全て読者の想像力に丸投げされているようで、読んでいても情景が浮かんできません。
ネット小説も面白い作品はありますが、書籍化されている作品も読まれてみると書き方の参考になると思います。