僕の神主修行
[13 黄泉は黄泉でも夜見の黄泉](1/60)
「…で?今考えてる進路は?」
「あたしは…普通高校にでも行って普通に就職出来たらなって…あ、でもファッションに興味あって、そっち方面目指そうかなって」
「そっか。興味があることは積極的に進路選択に反映させておいた方が後々考えやすくなるからね、そういうのはいい事だと思うよ。」
「はい。」
「僕の家は今どき古めな世襲制だから…僕の話はやめといた方がいいかな」
「いえ、聞いときたいので話してください。一応授業ですし」
「…そっか。まあ、普通にエスカレーターだったよ。普通に高校に行って、大学はそういう大学に。…ただ…あんまり言えないことなんだけどね。色々あって途中で退学したんだ。特に暴れたとかいうわけじゃないんだよ。ほんと、色々ね」
「そうですか…なんか、ずっと思ってたんですけど、命葉さんて大変そうですよね。色んなもの抱えてるというか。」
「そう?そういう風に見える?」
「なんとなくですけど」
「そっか。まあ、それに関係するとだけ思っておいてくれればいいよ。あの時はうちからも戻ってくるように言われてね。祖父の代から行ってた学校だったから、コネをね…」

体験学習3日目。

久遠さんも目を覚まし、かぐや姫も竹取物語を書き終えてどこかに行ってしまった。

正直、あの竹取物語にはどんな意味があるのかさっぱり分からない。

ただ、それでいいのかもしれない。

分からないことがそれの面白さだとしたら、その面白さが面白い。

僕はそう思う。

「ふう〜ん…でも、命葉さんってそう言ってる割には結構世界を見てる感じがするのよね……もう少しなんかありませんか?」
「(そりゃ世界どころか天にも行ったし…)いや、これ以上はないよ。僕もあまり自慢出来る経験はないしね。あったとしても見てただけだよ、ほんと」

僕の経歴は人に話せないものばかりだ。

だから雨零さんの方がいいって言ったのに…。

このことは、残りの2人にも聞かれる前に隅々まで話しておくことにした。

何度も聞かれて何度も言うように、僕の進路は本当に役立つものでは無い。

自分で真剣に悩んで選んだものでもないし、この家を継ぐためだけに勉強をしてきたと言っても過言ではないから、あまりいいアドバイスも期待出来ない。

だったらブラック企業の経験もある雨零さんの方が僕より経験豊富と言えるだろう。

植野さんはなんだかとても聞きたそうだったけれど、それは今度個人的に遊びに来てくれと頼んでその場を凌いだ。

ただ、久遠さんが問題だった。

かぐや姫も離れた久遠さんは、初めてあった時のような暗いイメージの子になってしまって、話すのも少々苦労した。

「久遠さんは…何目指してるんだっけ」
「…職業は…決まってません。ただ、史学がある大学に…進学したくて」
「その後はまだ決まってないのね。」
「…はい」
「そっか。…あのさ、ごめんね。神様に会いたいって…」
「…え」
「神様の方も随分快く承諾してくれたのに…僕らが至らないばかりに約束守れなくて」
「…いえ。今思えば、私も無理を言ってしまいました。ごめんなさい」
「いいよ。神様は人間が好きなのが多いんだ。だからいつでも言って。」
「ありがとう、ございます」

もともと人と話すことは得意なのではないんだろう、こうして話が広がることはあまり無かった。

先が決まっているのはいいんだけれど…

「高校は?どんなのに入るか決まってる?」
「はい。普通科の…あの高校がいいなって」
「ああ…そう言えばどこかに書いてあったかも…あの学校は良いところだよ。僕の母校ではないけれど、悪い噂は聞かない。…といっても、悪い噂があるからと言って止める権利は僕にはないんだけどね。君のやりたいようにやるといいよ。」
「…はい。ありがとう、ございます。色々…。お世話になりました」
「いえいえ。こちらもおかげでいい事はあったんだ。ありがとう」
「…?」

今回の件で、僕もまた1歩進んだ。

どこへかは分からないけど、とにかく進んだんだ。

まさか僕も学ぶところがあったとは…やっぱり僕はまだまだ半人前だった。






















…そう改めて気づくことも学びなんだな。



- 659 -

前n[*][#]次n
/726 n

⇒しおり挿入


⇒作品?レビュー
⇒モバスペ?Book?

[編集]

[←戻る]